かっこよくて不適切⁉「昭和の復権」を予言していた「クレイジーケンバンド」の凄み

≪東洋一のサウンドマシーン≫クレイジーケンバンド横山剣インタビュー

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クレイジーケンバンド・横山剣
クレイジーケンバンド・横山剣

 今年放映された宮藤官九郎脚本のテレビドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)は、コンプライアンスにうるさい令和に、まったくそうでなかった昭和の主人公がタイムスリップするという設定で話題となった。

 しかし今を去ること20数年前、逆に「昭和にワープだ」と歌ったのが‟東洋一のサウンドマシーン”クレイジーケンバンド。その恐るべき先見性(?)を、ボーカル兼バンドリーダー・横山剣の話から探ってみた―。

(全2回の第2回)

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「かっこいい」を探して「昭和にワープ」

クレイジーケンバンド『火星』通常版〔CD〕3,575円(税込)
クレイジーケンバンド『火星』通常版〔CD〕3,575円(税込)

 とかく令和の現在、昭和を「未開で劣った克服すべき時代」と考える傾向があるのではないか。テレビのバラエティ番組でも、10代20代のタレントに昭和の熱血教師や猛烈サラリーマンの映像を見せては、「ありえない~」「それダメでしょ」などと言わせている。しかし本当に、昭和はそんなにダメでダサくてありえない時代だったのか。まずは以下の曲の歌詞をお読みいただきたい。

  かっこいい世界は 探せばきっとある
  もしもそれが全滅したら いっそ昭和にワープだ
 ―「かっこいいブーガルー」クレイジーケンバンド(2001)

 作られたのは平成だが、この時点ですでに、今の世界では「かっこいいもの」は探さなくては見つからない。しかし探しても見つけられなければ「いっそ昭和にワープだ」、つまり、「かっこいいもの」は昭和にしか存在しないと言っているのだ。バラエティ番組で若い世代の嘲笑と憐憫の対象になっていた昭和にしか「かっこいいもの」はないと。いったいどういうことなのか。

 そもそもクレイジーケンバンドはデビューしてしばらくの間、メディアでは「昭和歌謡バンド」といった扱いを受けていた。当時、それに対する違和感もあったというバンドリーダーの横山剣はこう語る。

「いや、本当に昭和歌謡は大好きで、いろんな曲にずっとレシピとして昭和歌謡的要素を入れています。ただ、実際に昭和歌謡の楽曲をカバーしているミュージシャンもいるので、我々はそうではなく、クリエイティブな曲作りの中に昭和歌謡を活かしているんだと言いたかった」

 その後の長い活動の中で、いつしか「昭和歌謡バンド」と呼ばれることもなくなったクレイジーケンバンドだが、9月18日にリリースされた通算24枚目の新作アルバム『火星』には、まさに「昭和にワープ」的な曲が収録されているのが面白い。横山によるその曲「2時22分」のセルフライナーノートには、このように記されている。

 ここ数年脳内にずっとメロディーやコードやビートを伴って「♪2時22分・・・」とだけ鳴っていたんですが、本年6月、その続きに着工し、完成に至りました。「2時22分」とは、222、つまりニャンニャンニャン、つまりチョメチョメ(by 山城新伍さん)であると。そんな気分を呼び込んでくれたのは、宮藤官九郎さんのドラマ「不適切にもほどがある」でした。

「におい」と「潮騒」

「俺の話を聞け!」も令和ではパワハラ⁉
「俺の話を聞け!」も令和ではパワハラ⁉

 どんな楽曲に仕上がっているかは、実際に新作をお聴きいただきたいが、クレイジーケンバンドと宮藤官九郎の共振性、共時性には驚かされるばかりだ。それでは令和の現在に甦る「昭和的なるもの」について、横山はどのように捉えているのだろうか。

「現代に生きていながら、過去の昭和に目をやって、何かをつかんで来る。普段は陸で生活してるんだけど、海の中のサザエを潜って捕ってくる、というような感覚ですかね。捕ってきたサザエをこう持って、においを嗅いでみたら磯臭くてウエッとなるんだけど、耳に当てたら潮騒が聞こえてくるわけです」

「におい」と「潮騒」。独自のメタファーで、令和の現在に昭和的なものを扱うイメージを説明してくれる。いいものもあれば、そうでないものもある。先ほどの「かっこいいブーガルー」でいえば、「潮騒」が昭和の「かっこいい世界」なのだろう。それでは一方の「におい」の方はといえば―。よく知られているヒット曲「タイガー&ドラゴン」を例に挙げ、さらに説明を続けてくれた。

「あの曲の主人公は、令和の今ならパワハラっていうか、面倒くさいヤツですよね。相手の都合も考えずに後輩を呼び出して『待ってるから急いで来いよ』『俺の話を聞け!』ですからね。そういう人物に限って寂しがり屋だったり親切だったりするから、なおさら暑苦しい。『ダサいスカジャン着て』っていうけど、スカジャンがダサいんじゃなくて、2,980円の安いヤツだからダサい。『貸した金の事などどうでもいい』なんて言ってますが、本当にどうでもよければわざわざ言いませんよ(笑)」

 まさに昭和的なあれこれを体現したような、さらに言えば『不適切にもほどがある!』の主人公、阿部サダヲが演じた熱血教師・小川市郎とも響き合うような人物だったわけだ。

 冒頭の話に戻せば、なにかと旗色の悪い昭和からも「かっこいい世界」をひょいと取り出す一方で、「ありえな~い」人物を主人公にしてヒット曲を生み出しもする。宮藤官九郎ドラマをきっかけに「昭和的なるもの」の再評価が始まる中で、クレイジーケンバンドの融通無碍な音楽世界もまた、注目を集めることだろう。

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 第1回では、バンド結成から27年。ほぼ毎年秋に新作アルバム発売し、その後の秋から来春にかけて全国ツアーを行うクレイジーケンバンドのバイタリティーを保つ秘訣を聞きました。
 第1回【クレイジーケンバンド・横山剣が「何も毎年出すことはないんじゃないの」と言われてもアルバムを出し続ける理由とは?】を読む