笑う森

笑う森

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『無責任な親のために、税金をムダ遣いするな!!』
『シングルマザーなんだろ。生活が苦しくて子どもを捨てたんじゃね』
『ニュース見た。母親のくせに涙がないのはおかしくない?』
『犯人は間違いなく山崎岬』
『母親、生意気。消防と警察に朝まで仕事をさせる気だった。そうじゃないとわかったら怒り狂った』
 あれのおかげで生きようと思った。生きて、一人一人の居場所を突き止めて、パソコンやスマホを打つ背中に言ってやりたかった。
「楽しい?」

「あむむ」
 真人の寝言はなんだか苦しそうだ。体のほうはもうなんともないが、前にも増して感情を表さなくなった。森に心を吸い取られたみたいに。
 運ばれた病院のお医者さんは、飢餓による衰弱はない。食べ物は摂っていたはずだと言う。だから何度も真人に聞いた。何を食べていたの?
「ごはん、しらないおかし」
 誰にもらったの、と聞くと、
「くまさん」
 発見された時の真人は、見たことのないマフラーをしていた。警察は拾ったのだろうと言うが、誘拐されていたのでは、と疑ったりもした。
「マフラーはどうしたの」
「もらった」
「誰に?」
…くま…」
 誰かが真人にマフラーを渡したのだ。食事を与えたり、暖を取らせたりもしてくれていた気がする。でも、なぜ、名乗り出ないの?
 いったい誰が真人を助けてくれたんだろう。

(つづく)
※次回の更新は、6月2日(日)の予定です

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