―文庫版ではさらにボーナストラックが収録されました。

  本編の結末で、主人公の希望のぞむを行方知れずのままにしたのは、先の未来で彼は、自分の納得できる場所に行ったはずだと思えたからです。同時に、そのような明るい未来を文章にすると嘘になってしまいそうな気持ちもありました。
 そして、様々な経験を経た今の私は、希望は別の場所で生きているという未来を心から信じられるようになりました。なので、文庫では行方知れずのままでもちゃんと彼の人生は続いているということを伝えるために、ボーナストラックを加えました。私自身の変化がボーナストラックを産んだのかもしれません。

 ―『希望のゆくえ』本編では、希望は登場せず、希望と接していた人々が語り手となって、希望との記憶を語っています。

『希望のゆくえ』は、希望に逃げられた人たちの物語です。逃げられた立場の目線で本編を読み進めていくので、暗い気持ちになってしまった方がいるかもしれません。
 たとえばリアルに辛い状況にいる大切な人に「嫌なことがあったら、その辛い場所から逃げていいんだよ」と言う時、その大切な人は自分のもとからも離れてしまうかもしれない、その人にとっては自分も“逃げたい対象”かもしれないとまでは考えないと思うんです。だから突然その人が自分の前からも消えると、失う覚悟がないから辛くなる。けどきっとその人は、自分の居場所を見つけているんだと私は、思います。
 ボーナストラックを加えたのは、決して気持ちが暗くなって終わるような物語ではないということを、読者の方に伝えたかったからでもあります。

 ―寺地さんがお話ししてくださった本書のテーマは、昨年出版された単行本『わたしたちに翼はいらない』にも共通していますね。

 そうですね。『希望のゆくえ』の単行本に収録しなかったあるお話を膨らませた作品が、『わたしたちに翼はいらない』です。『希望のゆくえ』で感じたことがあり、この数年で変化した私が考えた結果の作品なので、この2作は兄弟みたいな関係性と捉えていただければいいのかもしれません。
 なのでこちらにも、「読むのがしんどかった」という感想は多いだろうと予想はしていました。それでも書こうと決めて、1行1行すべて考え抜いた作品です。後悔はひとつもありません。
 これまで他の作品を文庫化する時にも、「足りていない」と感じることはありました。それは単行本の時点で私が持っていた言葉が書きたいことに追いついていないからなので、文庫で表現や台詞を変えることはありました。『わたしたちに翼はいらない』も、今から数年後に読んだら、そういう未熟さは感じるかもしれませんが、妥協は一切しなかったという自信は変わらないはずです。

 ―最後に、読者の方へのメッセージをお願いします。
 
 私はいつも、読んでくださっている方、皆さん、幸せになってねと思いながら書いています。良いことがありますようにと願っています。私の本を買ってくださり、読んでくださっただけで、その方のことを好きになってしまうので…。好きな人たちには、幸せになっていただきたいです。登場人物たちの幸せももちろん願っています。読者の方、登場人物たち、皆、幸せの形は違います。だから、いつもその人にとっての幸せに巡り合いますようにと、祈っています。