【試し読み】990万部突破!「しゃばけ」シリーズ最新作『なぞとき』⑤

【試し読み】990万部突破!「しゃばけ」シリーズ最新作『なぞとき』

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江戸は通町にある廻船問屋兼薬種問屋「長崎屋」の病弱若だんな・一太郎と彼を見守る不思議な妖たちがお江戸で起きる怪事件難事件を解決する大人気シリーズ「しゃばけ」! 累計990万部突破の最新作『なぞとき』の刊行を記念して、5日連続で冒頭部分を特別公開いたします。
屈強な佐助が血まみれになってしまい、若だんなも妖も大騒ぎ!! 犯人はいったい誰なの~? 

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 大男と小兵こひょうせた男と、見分けやすい三人がいたので、おしろが目を向ける。
「一軒家で暮らす金次さんが、よく廻船問屋の事を話すんです。あの水夫さん達、大七だいしち小六ころく笹一ささいちの三人だと思います」
 長く佐助と仕事をしている仲間とかで、この三人からなら、きっと良き話が聞ける筈であった。綺麗な二人は、そそくさと男達の所へ向かったのだ。
 すると話しかけた途端、年かさの大七が、溜息ためいきを漏らした。
じょうちゃん達、綺麗な振りそでを着て、男の事を聞くもんじゃないよ」
 その格好なら、良き家の娘御むすめごなのだろうが、妙な噂が出たら、良い縁談えんだんを逃してしまうと大七は言ったのだ。
「先にも、手代さんに会いたいって、可愛い子が店へ来てな。後から親が現れて、そりゃ一騒ぎ起きたんだぞ」
 実は、親が怒るような事は、何もなかったのに、娘は泣く事になったのだ。
「無茶はしないこった」
 大七は、大真面目であった。だがそう言われても、妖であるおしろや鈴彦姫には、親などいないのだ。
「あの、あたし達はただ、手代さんの喧嘩けんかについて知りたいだけで…」
 妖であるから、実は大七よりもずっと年上で、今更いまさら心配されるようなことはない。おしろも鈴彦姫も、なぜ突然とつぜん説教せっきょうされるのか、さっぱり分からなかった。
 そして、二人が帰らないでいると、話は思わぬ方へ転がり出した。
「嬢ちゃん達、まあ聞きな。気になってる手代さんが、いるかも知れんけどな。手代さんじゃ、縁組みをする話にゃならんのよ」
 商家の奉公人でもよめを貰えるが、それは番頭ばんとうになって、店の外から通えるようになってからの事なのだ。大七は、おしろ達へ引けといってくる。
 すると小六が、横から口をはさんできたのだ。
「まあまあ大七さん、かたいことを言わねえで。嬢ちゃん達、良い男に興味が出てきたなら、ここにもいるぜ」
 小六は自分の事を、大きな荷でも楽々かつげる力持ちだと、何故だか売り込んで来る。しかし小六の事を聞いても、佐助が喧嘩をした事情が見えてくる筈もない。
「あのぉ、あたしが知りたいのは、今日、騒ぎが無かったか、とかですね…」