【試し読み】990万部突破!「しゃばけ」シリーズ最新刊『なぞとき』③

【試し読み】990万部突破!「しゃばけ」シリーズ最新作『なぞとき』

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江戸は通町にある廻船問屋兼薬種問屋「長崎屋」の病弱若だんな・一太郎と彼を見守る不思議な妖たちがお江戸で起きる怪事件難事件を解決する大人気シリーズ「しゃばけ」! 累計990万部突破の最新作『なぞとき』の刊行を記念して、5日連続で冒頭部分を特別公開いたします。
屈強な佐助が血まみれになってしまい、若だんなも妖も大騒ぎ!! 犯人はいったい誰なの~? 

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 妖達は、どこで何をすべきか、まだ分からないと言いつつ、外へ歩み出してゆく。ただ部屋から出た所で、おしろが振り返った。
「あの、若だんな。あたし達はこの賭け事に、わくわくしてますけど。佐助さんを賭けに使って、大丈夫でしょうか」
 若だんなが後で困りませんかと、猫又は気を遣ってくる。あわてて足を止め、離れの内へ目を向けてきた妖達に、若だんなはほんわり笑いかけた。
「あのさ、私達は佐助の怪我の件で、賭け事をした。それは、あれしきの事なら、佐助は大丈夫だって分かってるからだと思う」
 もし佐助が本当にあやうい程、誰かにやられたとしたら。長崎屋の妖達は、お楽しみなど考えないはずなのだ。
「その時は、仁吉やおっかさん、いや、遠くにるおばあ様まで巻き込んで、佐助の味方になるよ。そして、大坂の陣以来の合戦かっせん支度じたくを、すると思う」
 佐助とて、己が本当に危ういと分かったら、強がってなどおらず、この先いかに動くかを、若だんな達に相談してきた筈なのだ。
「佐助には、見栄みえを張らない強さがあるから」
 つまりだ。若だんなは楽しげに言った。
「佐助が何も言わないんなら、心配する事はないと思う。だから私達は、この賭け事、楽しくやりげよう」
「ああ、楽しんで大丈夫なんですか。ではうふふ、思い切りやってみます」
 あたしはお弟子さん達と、おさらい会をやりたいからと言うと、おしろはさっと猫又の姿になり、屋根へと飛び上がって消える。
「あら、先に行かれてしまいました」
 鈴彦姫も、外廊下そとろうかからふわりとき上がると、不意ふいにその姿を消した。
「きゅい? きゅわ? おしろ、鈴彦姫、いないよ」
「おしろ達、張り切ってるな。あたし達も表へ…行けないじゃないか。この屏風のぞきには、薬種問屋の仕事が待ってるぞ。金次なんか、いつまで離れにいるのかって、そろそろ佐助さんが呼びに来そうな気がする」
「ひゃひゃっ、そうかね」
 貧乏神は外廊下で楽しげに笑うと、自分と屏風のぞきは働きつつ、まずは勝った時のご褒美を何にするか、それを考えても良かろうと言ったのだ。
「おたがい、まだ決まってなかろ」
「そういえば、そうだったね。難しいよなぁ」
 屏風のぞきは頭をきつつ、薬種問屋へと去ってゆく。一方貧乏神金次は、小鬼達と若だんなを見ると、困ったような顔になった。
「何で皆、金で何とかなることを、ちゃんと選べるんだろうね。あたしには、そりゃ難しい事なのに」
「金次、私のご褒美は、皆に兄やと両親を説得してもらわないと、叶いそうもないんだ。つまり金次も、皆の力添ちからぞえが欲しい事を願って良いんだよ」
 ただ長崎屋の妖達の力で、何とかなる事でないと、皆が困ってしまう。
「だから、ご褒美は、ちゃんと叶えられるものにしてね」
「ああ、たたれる相手が欲しいと言っても駄目だったのは、離れの皆が困るからか」
 金次は頷くと、選び方が分かったのは嬉しいと言い、廻船問屋の方へ去る。若だんなは小鬼へ目を向け、自分達も頑張ろうと言ってみた。
 するとだ。
「きゅい、小鬼は立派りっぱ。だから、若だんなに力、貸す」
 わらわらと、沢山の小鬼が長火鉢の側へ集まって来ると、そろって頷いている。若だんなはにこりと笑い、一匹をひざに抱いた。
「そうすると、鳴家達は佐助の謎をく間が無くなるから、ご褒美を貰えないよ。いいの?」
「お菓子、若だんなが買ってくれる。いつもそう。だから、いい」
「なるほど、そうか」