確かに、阿賀野のお祖父ちゃんお祖母ちゃんの方が一緒に遊べる時間に自由が利くし、向こうの家にはゲームやアニメやそういうものがほとんど何でも揃っていて、全員が詳しいから一緒に楽しめる。優にしてみると向こうの方が楽しく思えるのもわかる。
 でも、真下のお祖父ちゃんお祖母ちゃんも優しくて大好きだよね。お店に一緒にいてお手伝いするのも楽しかったよねって、確認した。優も大きく頷いていた。じゃあ、ちゃんとそう言って、今までありがとうございましたしようね。向こうの家に行くのが楽しみとは言わないようにねって。

「こうなってみるとこれで良かった」
 真下の家を出て阿賀野に戻ると決めて皆に話をしたのに、優が年長になる来年の春までずっと居続けていたらちょっと気まずくなったかもしれない。気まずくじゃないかな。居づらくでもない。その状況に慣れてしまうのは、きっとお互いのためにはならなかったと思う。
 だから、あっという間に決まってすぐに出て、良かったんだ。
「そう、本当にそう。決めたらすぐに動けた方がいいもの」
 鈴ちゃんがクローゼットに私の服を掛けながら言う。
 私たち二人の部屋の造りはまったく同じなので、クローゼットへの整理の仕方もまったく同じ。どんどん手際よく片づけていく。
「いろいろ迷惑を掛けちゃったけど」
 土曜日。忙しいのに鈴ちゃんが引っ越しを手伝ってくれた。陸も車を出して小さな荷物を運んでくれたし、お父さんとお母さんも真下の家までまた改めて挨拶をしに来てくれた。
 大きな荷物はほとんどなかったから楽といえば楽だった。
 引っ越し業者さんに運搬を頼んだのは優の服を入れてる小さな子供用のチェスト。おもちゃなどの段ボール数個。私の荷物も服とその他の段ボール数個。タンスなんかは、元々実家の私の部屋にあるクローゼットをそのまま使えばいいから、真下家で使っていたものは全部置いてきた。
 だから、営業中だった真下家の皆さんの手を煩わせることもなくて、あっという間に荷物の運び出しは終わった。
 永の別れじゃないんだからそうしましょうって皆で話していた。
 そして本当に、取り繕ったわけじゃなく、これからも定期的にお店に顔を出してお総菜を買っていきます。何だったら週一でもと話したら、それはさすがにキツイだろうから月一ぐらいにしておけばいいよって翔さんが笑っていた。
 またすぐに顔を出しますから! と店の中に声を掛けて、お義父さんもお義母さんも、ひびきくんも営業中の笑顔のまま「またね!」と軽く手を振って湿っぽさも何もないようにしてくれたんだ。
 既にもう私は阿賀野蘭に、優も阿賀野優になっていたから、本当に、今日が真下家とのお別れの日になった。

(つづく)
※次回の更新は、10月10日(木)の予定です。