第五回 ②

ムーンリバー

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前回のあらすじ

阿賀野鈴 40歳 出版社勤務の編集者。夫を亡くした後も婚家で暮らしている妹の蘭から電話があり、〈真下蘭から、阿賀野蘭に戻ることにしました。そしてそちらの家に帰ります〉と私達に宣言した。蘭の息子の優も一緒に、優が幼稚園の年長さんに進級する区切りで。蘭の「区切り」という言葉に、両親と私は考え混んでしまった。

イラスト 寺田マユミ
イラスト 寺田マユミ

「そちらの、ほらお店としては、いつらんがいなくなっても大丈夫なのかしら?」
〈うん。本当に私が決めたときで。だから中途からでも入れる幼稚園があるのなら、それでもいいかなって。まずは私がそっちに行ったり来たりして調べる〉
ゆうが幼稚園に行ってる間にだな?」
〈そう。それを区切りにお店の手伝いも止められるし〉
「あなたたちが通った幼稚園はどうだったかしらね。訊いてみる?」
〈私の方でやるからいい。その他にも手続きはたくさんあるから、全部一人でやった方が混乱しない。引っ越しは手伝ってもらうし。すみませんが部屋の準備はお願いします。私の元の部屋で充分ですから〉
「部屋は、そういうわけにはいかないんじゃないかな」
 お父さんが言った。
「優が幼稚園のうちはまだいいだろうが、すぐに小学校に入るんだから自分の部屋は必要だろう。改装も考えておいた方がいいかな」
「あぁ、そうね」
 あと二年もしたら優ちゃんも小学生だ。りくの部屋が空いていたけれど、そこは今はやよいの部屋になっている。私は、元の自分の部屋。現状、我が家で空いている部屋は蘭の元の部屋と客間として使っている座敷しかない。
〈それはね、鈴ちゃんじゃないけど基本的には自分の仕事を見つけて一人立ちするつもりでもいるから、まだ考えないで〉
「就職して別に部屋を借りるということか」
〈それはもう就職の状況に因るからわからないけれども、今のところはそうするのが理想かな、と思ってる〉
「一人立ちすることを考えるのは立派だが、ここはお前の家なんだ。ずっと住んでいてもいいんだからな?」
〈うん。ありがとう〉
「それに、まぁ今訊くのもあれだが、将来的に再婚をまったく考えてないってことはないんだろう? お前は」
 お父さんが言うと、蘭も頷いた。
〈この間も言ったけれど、今のところはまるで考えていないけれど、何かを決めているわけでもない〉
「お前は、って。そう言ったら鈴だって、ねぇ?」
 お母さん。ねぇ、とふられても困るけれども、頷くしかない。