第五回 ①

ムーンリバー

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前回のあらすじ

真下蘭、27歳。夫の晶くんが事故死してからも、〈デリカテッセンMASHITA〉を手伝いながら婚家で暮らして1年経った。ようやくこの家を出て、息子の優と一緒に実家に帰り、阿賀野蘭として自立して生きていくための準備を始める決心をした私に、義父母は寂しそうだったけれども、賛成してくれた。お店の手伝いもやめることにした私が、次にしなければならないのは…。

イラスト 寺田マユミ
イラスト 寺田マユミ

阿賀野鈴あがのすず 四十歳 文芸編集部 編集

 偶然、と思えたものは実はほとんどが必然なのだ。
 そう書いた作家さんがいた。
 たとえば、大学卒業以来会ったことのなかった同級生に、十年ぶりぐらいに会社の近くの駅でばったり会ったりする。「凄い偶然!」と盛り上がって話をすると、転職してこの近くの会社に入社したんだと言う。つまり、互いに毎日使うようになった駅で顔を合わせるのは必然だったのだ、という話。
 なるほどね、と思った。
 それなら私が離婚して子供を連れて実家に戻るのと、らんが結婚して実家を出たのが偶然にも同じ年になってしまったのは、十三も年が離れている姉妹だったから故の必然だったのかな、と。そんな必然は誰も思いもしなかっただろうけど。
 十三歳離れてしまった理由は、あった。
 私を妊娠したのはもちろん両親が互いに愛し合った結果だけれども、ほぼ若さからのもので計画性はまったくなかったそうだ。
 その後は、私の子育てが一段落する頃にりくを引き取り、互いに仕事の成功があって忙しくなったりで、次の子供なんてまったく考えていなかった。
 それなのに蘭を産むことにしたのは、私に本当の意味でのきょうだいを持たせようと話し合って決めたからだったそうだ。
 私だけじゃなく、陸のためにも。陸が大きくなって自分が甥っ子であることを理解したとき、私の下に他にきょうだいがいないのは自分がこの家に来たせいなんだ、なんてことを思ったり考えたりしないように。
 私に子供ができたときにお母さんから聞いた話。十三年の差はそういうことだったのか、と深く感じ入ってしまった。まぁ現実にはもう少し早く産みたかったのだけれども、そればっかりは授かり物なので如何ともし難かったみたいで。
 阿賀野家に、私の家族にこれまで大波どころかさざ波さえ立たなかったのは、その家族構成からもたらされたものが大きかったんだ。そうはっきりと考えたのは、感じ取れたのは結婚してからだったけれど。