『一日の休息を最高の成果に変える 睡眠戦略』
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【毎日書評】極めよ、眠り。本当にパフォーマンスがあがる「睡眠戦略」3つの大原則
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『一日の休息を最高の成果に変える睡眠戦略』(角谷リョウ 著、PHP研究所)の著者は、約14万人のビジネスパーソン、経営者、スポーツ選手などの睡眠の改善をサポートしてきた上級睡眠健康指導士。いわば睡眠のプロですが、一般的な睡眠コーチングにはもどかしさを感じてもきたようです。
日本では、ビジネスパーソンの多くが十分な睡眠を取れていないことに悩んでいるため、どうしても「足りていない睡眠を取れるようにする=マイナスをゼロにする」という発想になりがちだというのです。また、巷にあふれる「睡眠本」もその大半は、「足りていない睡眠を取れるようにする=マイナスをゼロにする」方法にとどまっているそう。
つまり、多くの人が睡眠不足に悩むなか、睡眠の改善そのものが「目的」になってしまっているということです。
もちろん、睡眠の質を改善するだけでも、大きな効果を得られます。
しかし私は、睡眠とは自身のパフォーマンスを最大化するための「手段」であるべきだと考えています。
「自分は十分な睡眠を取れている。睡眠には何の不満もない」。
そう感じている人であっても、自身が置かれた局面に合わせた最適な睡眠を選んで実行することで、これまで手にしたことのない果実を得ることができます。(「はじめに」より)
ビジネスパーソンが置かれる状況は多種多様で、自信が「こうありたい」と願う姿もとの時々で変わるもの。だからこそ必要なのは、自分が直面するさまざまな状況に応じて使い分けることができ、高いパフォーマンスへと導いてくれるメソッド。すなわちそれが、著者の提唱する「睡眠戦略」だというわけです。
きょうは序章「睡眠戦略を成功に導く『講義と準備』」内の「講義」の部分に着目し、3つの「大原則」を確認してみることにしましょう。
大原則1 「回復」だけでなく、「進化」するために寝る
睡眠が持つ効果には大きく分けて「回復」と進化があり、それぞれ「身体」「脳」「メンタル」に作用するのだそうです。つまり、睡眠には次の6つの効果があるということ。
・身体の回復 筋肉の疲労からのリカバリー、お肌や髪の再生、けがの治癒など
・身体の進化 筋肉や関節の増強、運動神経の発達による新しい動きの習得など
・脳の回復 脳の疲労からのリカバリー、眠気解消、認知症の原因物質の除去など
・脳の進化 新たな知識の整理・定着、新しい動きや思考の習得、創造性の向上など
・メンタルの回復 落ち込みや鬱状態からの回復、怒りや欲望に伴う衝動の低減など
・メンタルの進化 幸福感の向上、経験によるストレス需要能力の向上など
(42〜44ページより)
睡眠が持つ回復効果についてはさまざまな情報が存在しますし、日常生活のなかで実際に経験されていることも多いはず。また、睡眠が認知症の原因物質のひとつである「アミロイドβ」の排出に関わっているという研究結果をご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
それだけではありません。肌や髪を美しく保つために睡眠が重要であるといわれるのも、日中に受けたさまざまなダメージからの回復が必要だから。そうやって改めて考えてみるまでもなく、睡眠に多大な効果があることは間違いないわけです。(42ページより)
大原則2 なぜ寝ているあいだに記憶が定着するのか
睡眠の状態は、おもに脳波を調べることでわかるのだといいます。脳波は、脳が発する微弱な電流を、頭皮などに取りつけた電極で読み取ったもの。それが文字どおり、波のような形に記録されるということです。
脳波は大きく分けて、波長が短い方から「ベータ波」「アルファ波」「シータ波」「デルタ波」の4種類があります。
ちなみにアルファとベータの順番が逆になっているのは、脳波研究の黎明期にハンス・ベルガーという人が最初に発見したのがアルファ波だったためです。(45ページより)
4つの脳波は、基本的には波長が短いほど覚醒した状態、長いほど深い睡眠に陥っている状態のときに記録されることがわかっているそう。
完全に覚醒しているとき、アルファ波はリラックス状態からごく浅い睡眠のときに現れるのがベータ波。浅い睡眠時に現れる脳波であるものの、深い瞑想中などにもみられることで知られるのがシータ波。
そして睡眠の深さを知るための指標となっているのがデルタ波で、この値が高いほど、深く質のよい眠りがとれているとされるようです。(45ページより)
大原則3 最新研究で明らかになった「浅いノンレム睡眠」のすごい役割
ご存知のように睡眠には大きく分けて「レム睡眠」「浅いノンレム睡眠」「深いノンレム睡眠」の3種類がありますが、それぞれ効果は異なります。それぞれを確認してみましょう。
レム睡眠
レム睡眠の間、筋肉は弛緩していますが、その一方で脳は活発に活動しています。「レム」とは「rapid eye movement(速い目の動き)」の略称で、つまりは眼球も活発に動いているということ。夢を見るのもレム睡眠時で、最新の研究では、レム睡眠はメンタルを安定させたり、人間らしい情報を生み出したりする作用に大きく関わっていることがわかってきたのだといいます。
深いノンレム睡眠
深いノンレム睡眠については、成長ホルモンの分泌を促し、身体と脳を回復させる効果が認められているそうです。生命を維持していくうえで欠かせない、もっとも基礎的な機能を担う眠りだと著者は述べています。
浅いノンレム睡眠
最新の研究結果でわかってきたのは、浅いノンレム睡眠の間に出る特殊な脳波が、記憶の定着や運動神経の発達に関わっていること。身体と脳の「進化」に重要な役割を果たしているといえるそうです。
これら3つの眠りの効果は互いに重なり合っていますが、いずれも重要な役割を持っていることには間違いないといいます。(48ページより)
こうした“基本”を軸として、本書では大谷翔平、マドンナ、ラリー・ペイジらの著名人が取り入れているという「7つの睡眠戦略」が紹介されています。自分にフィットしそうなものを実践してみれば、睡眠の質が向上するかもしれません。
Source: PHP研究所