「精神世界である大宇宙と、人間内部の小宇宙は、共通する構造を持っているからです。生命の木を構成する十個の数枝は、人間の基幹を成す要素を示しています。人間の似姿である泥徒においても、それは同じものと言えます」
 年齢に似合わない大人びた話し方をした少年の名は、タデウシュ・スタルスキ。
 教師は満足そうに頷いた。
「良い答えだ、スタルスキ君。生命の木を構成する十の数枝は、泥の人形を泥徒へと変える霊的な臓器とも言うべき存在である。当然、泥徒の創造を志すなら、その数枝の働きについて覚えておかなくてはならない」
 生徒たちに背を向け、手早く板書を始める。

一 ケセル   「王冠」
二 ホクマー  「知識」記憶を司る数枝
三 ビーナー  「知恵」解釈を司る数枝
四 ヘセド   「慈悲」反射を司る数枝
五 ゲブーラー 「権力」運動を司る数枝
六 ラハミーム 「美善」
七 ネーツァハ 「忍耐」活力を司る数枝
八 ホード   「威厳」代謝を司る数枝
九 イェソード 「基盤」
十 マルクト  「王国」

 ブラウは向き直り、白墨チョークの先端を生徒たちに突きつけた。
「主からこれらの数枝を与えられたことにより、人間は他の動物より優れた存在となった。泥徒もまた同じ。多くの数枝を宿して人間と近い存在となれば、より優れた性能を持つことができるわけだ」
「質問してよろしいでしょうか?」
 手を挙げたのは、先ほどのタデウシュだ。
「ケセル、ラハミーム、イェソード、マルクトの四種類は、具体的にどのような機能を司っている数枝なのでしょうか?」
 それら数枝の下には二つ名が記されているだけで、司る機能は空白のままだった。

                                      (つづく)