歌舞伎になくて、朗読にあるもの。

 これほど尺の長い作品の朗読に挑んだのは今回が初めてです。
「しゃばけ」シリーズは江戸時代が舞台なので、その点で歌舞伎と親和性はありますが、歌舞伎は1つの演目で2つ以上の役を演じることはあまりありません。それに衣裳という見た目の印象でも見せられるので、声だけで複数人を演じ分けるのは、正直なところ難しかったです。登場人物も多いので、台詞回しや声の演じ分けをよくよく考えましたが、皆さんに聴いていただいた時、どの人物の台詞なのか分かりにくくないかなと、心配です。
 歌舞伎は基本的には古典が基となる演劇で、繰り返し演じられている演目と、新作の歌舞伎もあります。朗読では、新作に挑む時と同じアプローチをしました。
 まず僕は、従来の歌舞伎のお役にあてはめてみます。「この役は歌舞伎のあの演目の、このお役が近いかな。なら、どういうしゃべり方をするかな」みたいに。朗読でも、その上で「しゃばけ」のキャラクターの個性が出ている一面を古典歌舞伎のお役に重ねて、役を考えました。息遣いは、歌舞伎と朗読では違うと思っていましたが、大なり小なり共通する部分もあるという気づきもありました。
 歌舞伎になくて朗読にあるものは、地の文ですね。感情のない語りは初めてでしたが、なるべく抑揚のないように、しかし展開によっては平坦だとつまらない場面もあるので、時に抑え目に抑揚をつけました。
 また、「Amazonオーディブル」は、何かをしながら聴く方が多いと思うので、全体にその妨げにならないように気をつけました。歌舞伎ではどんなお役でも歌舞伎座のいちばんうしろのお客様まで聴こえるように声を出すので、声の出し方は違いましたが、それも楽しみながら演じさせていただきました。