初婚なので普通のご家庭の奥さんの苦労がわからないからあれだけれども、本当に楽してるんだろうなぁって思う。
 今夜は、優のリクエストでカレーライス。
 このカレーライスは、阿賀野家の、お母さんの作っていたカレーの味。初めてこの家で作ったときに、皆がこっちの方が美味しいと評判だったのでこれになった。
 今日は、お義父さんも一緒。翔さんと、響くんと、優。そして私。五人で囲む食卓。テレビからは、タレントが町歩きをするような番組が流れていて。
 翔さんが優に話しかけて、笑わせて、響くんが優に大好きなアニメの話をして、お義父さんは新しいメニューのことを話して。
 賑やかな食卓。
 優がいちばん早く食べ終わって、翔さんと響くんも食べ終わって優と一緒に居間のソファで何かをやりだして。
 お義父さんは、いつもゆっくりゆっくり食べる。それはいいことだけど、カレーの場合は冷めちゃうなぁとか思う。
「蘭さん」
「はい」
「もうすぐ、一周忌だな」
「あ、はい」
 晶くんの。来月の、十九日。
「その前に、きちんと言っておこうと、母さんとも話していたんだけどね」
 お義父さんが、最後の一口を食べて、スプーンを置いた。ティッシュを一枚取って、口を拭う。
 なんでしょう。
「蘭さんはな、まだ若いんだから、いい人を見つけた方がいいとは思うんだ」
「あ」
 そういう、お話。
「だけどな、このままうちの娘としてずっといてほしいと思う気持ちもすごく大きいんだ。私も、もちろん琴美ことみも」
 お義母さんも。
「ほら、向こうのお家には、お姉さんが帰ってきているだろう。そういうのもふまえて、そして翔や響のことは何も気にしなくていいってこともね。まぁ、話しておこうと。別にすぐどうこうってことじゃないだろうからね」
「はい」
 お義父さんが、微笑んで私を見る。
「蘭さんが幸せだと思う道を選んでくれれば、きっと優も幸せになる。晶もそう思ってくれる。私たちも、それを望んでいるということを、言っておくから」
「はい。ありがとうございます」
 いい人。お義父さんもお義母さんも。真下家の人は皆いい人。
 そんなこと、今まで一度も考えたことがないと言ったら嘘になるけれど。言ってもらえて、良かった。
 後ろめたさを感じないで、自分の将来を考えることが、できる。

(つづく)
※次回の更新は、3月28日(木)の予定です。