第六回 ④
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前回のあらすじ
越場勝士 52歳 文芸編集部編集長。十数年前に離婚して、今は大学生の息子・士郎と2人暮らし。部下の阿賀野さんと彼女の娘との食事に士郎を誘ったら、きょとんとされた。阿賀野さんの事情をあれこれ説明したものの、「大事な人なの? 阿賀野さんは」と聞かれてしまった。
「どうしてだ」
「だって、気にかけているんでしょ? そんなふうに食事でもするか、なんて誘うってことは。大事な部下、大切に思っている人なのかと思うよ」
子供の頃から知っているから、確かに普通の部下へ対する思いとは少し違うものがあるのかもな。
そんな文章が頭の中に浮かんできたんだが、そのまんまに答えるのを躊躇ってしまった。
俺は阿賀野さんを、鈴ちゃんを大切な人だと思っているのか。
いやそりゃあ思っている。
阿賀野さんだけじゃなく、部下はみんな大切だ。俺自身が朴念仁だったり柔軟性に欠けたりするような人間だってのはわかってるが、編集者としていい本を作ってほしいから、体調管理とか生活の様子などを気に留めることだってある。社内恋愛した部下二人のために気を配ったことだってある。
そんなのではなく、もっと大きいものが俺の中にあるのか。
彼女に対する気持ちに。
「そうだな」
頷いた。二十歳そこそこの息子に言われて気づいた。
「かもしれんな」
「しれんな、って」
士郎が笑う。
「再婚でも考えててその前段階での顔合わせとかなら、そう言ってよ。僕は全然気にしないし、普通に喜んで賛成するから」
「喜ぶのか」
「そりゃあ、結婚はおめでたいことでしょう。母さんも言ってたよ」
「なんて」
「いつまでも独身でいるからちょっと心配だって。いい人とかいそうだったら教えてねって」
え、あいつそんなことを言ってるのかお前に。
「けれども、違う。再婚など考えてもいないし、そもそも恋だの愛だのそういうものじゃあない」
そう、違う、と思うが。
「強いて喩えるなら」