透明になれなかった僕たちのために

透明になれなかった僕たちのために

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 とにかく僕はスマートな子供ではなく、勉強が出来ない。だからあなたが一緒に勉強をした。塾の先生に、親も一緒に勉強しないとあの子は勉強しないと言われていたような記憶があります。
 毎日、一緒に勉強しましたね。日本で三番目に長い川の名前とか、昆虫の種類とか、一緒に覚えた気がします。あなたに問題を出してもらって答える日々。特に興味はなかったものの、何故かあなたより川の名前に詳しい子供でいたかった僕は、ムキになって覚えました。そのおかげで一気に理科社会の点数が上がり、成績も合格圏へ、過去問を解いても常に合格ラインという状況までに持ってこれました。
 今、もし自分に子供がいて、働きながら勉強を教えられるかというと、中々しんどいだろうな、と思ってしまいます。まして、僕のような面倒くさい子供に何かを教えるなんて、大変な困難が伴うだろうなと…。
 泣く子供を、なだめ、すかし、あやし、叱咤激励し、あなたは僕を献身的に支え続けました。当時はただムカついていただけでしたが、今から思えば、感謝しかありません。
 試験当日は体調不良で、まるで自信がなく、落ちたと思った僕以上に父も落ち込んでいましたが、結果は合格。あれが僕の最後の受験勉強で、もう大して受験勉強をしなくていいと思うと解放感がありました。
 ともかく僕はなんとかD中学に進学出来るのですが、そこからまた本格的に挫折の日々が始まります。
 僕は単純にあなたたちを喜ばせたかっただけなのですが、人生は中々どうしてうまくいかないものですね。

  *

 そんなこんなをつらつらと書き連ねているうちに気づけばお別れの日が近づいて来ました。
 また東京で小説を書く日々に戻ります。
 いや、別に、東京で書かなくても、小説なんてどこで書いてもいいようなものなのですが。
 今は嵐山の喫茶店でこの文章を書いています。
 そろそろ明日には東京に帰ろうと考えています。
 それはもう伝えましたね。
 年末年始とあなたの誕生日を一緒に過ごせて嬉しかったです。
 あなたとは楽しく時間を過ごしたような気もしますが、気づけばあっという間の京都滞在でした。
 あなたはどうでしたでしょうか?
 東京の生活も、あなたと暮らさない日々にも慣れてきました。そんな日が来るなんて子供のときは想像もしていなかったですね。
 大人として生きるのも面倒くさくて、中々どうして難しい日々です。
 毎日どうでもいいことばかりやり過ごして生きています。
 父と元気でやっていてくださいね。
 また連絡します。

敬具

ちゃらんぽらんな息子より

(つづく)
※本連載は不定期連載です。