透明になれなかった僕たちのために

透明になれなかった僕たちのために

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 あなたは徐々に起き上がれなくなっていきます。薬を飲んで寝ていることも増えていきました。けんかも増えました。あの頃は僕も精神的な病気にまるで理解がなく、あなたを消耗させてしまいました。

 僕はあなたが心身のバランスを崩して以来、心が通じ合わなくなったという感覚を持つようになりました。

 僕はあなたを心配させたくなかったのですが、学校ではうまくいかず、むしろあなたをより一層不安にさせることになりました。倒れる以前からあなたは嫁しゅうとめ問題でも苦労をしていましたが、それに中学受験が重なり、倒れてしまいました。
 僕も最初は戸惑い、受け入れることが出来ませんでした。それまでのあなたはとても元気で、常に僕の心をケアしてくれていた。それに甘えていた僕の振る舞いも、あなたが心身のバランスを崩してしまった一因だったのかもしれません。
 本当はあのとき、僕がもっと成熟した精神を持っていれば、あなたを助けることが出来たかもしれません。でも、僕は現実には未熟な人間で、反抗期のようなものに突入しました。家にも学校にも居場所がなく、いじめのこともあまり話せず、徐々に内にこもるようになりました。

 そして、一時期、僕はあなたのことがあまり好きではなくなりました。

 もう少し優しくしてあげれば良かった。恨んだ日もたくさんあったけど、自分がもっと立派な人間だったら良かった。思い出すと、後悔を感じます。

 僕は家にいづらくて、学校にも行けなくて、街を徘徊するようになります。

 前回のじゃがいもの件ですが、隣人の部屋の前に引っ越し屋さんの段ボールが畳んで置かれていました。長らく管理会社の方にメールで抗議をしてきた結果です。とはいえ、その人は、引っ越すまでの間、じゃがいもの段ボール箱は放置することにしたようです。少し釈然としないですが、やっとじゃがいもの匂いからは解放されるかもしれません。
 しかし、僕も今のマンションには飽きてきていて、いい加減、引っ越そうかと思っているのですが。
 そんなことを考えつつ、目の前の仕事をしているうちに時間だけが過ぎていく日々です。
 最近、父から、あなたがそろそろ再入院をするかもしれないと聞きました。
 頑張ってくださいね。
 また手紙を書きます。
 どうかお元気で。

敬具

息子より 

(つづく)
※本連載は不定期連載です。