『この世からすべての「ムダ」が消えたなら 資源・食品・お金・時間まで浪費される世界を読み解く』バイロン・リース/スコット・ホフマン著

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この世からすべての「ムダ」が消えたなら

『この世からすべての「ムダ」が消えたなら』

著者
バイロン・リース [著]/スコット・ホフマン [著]/梶山あゆみ [訳]
出版社
白揚社
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784826902595
発売日
2024/07/17
価格
2,970円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『この世からすべての「ムダ」が消えたなら 資源・食品・お金・時間まで浪費される世界を読み解く』バイロン・リース/スコット・ホフマン著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

無駄でない楽しい話題

 パリ五輪の競泳女子百メートルバタフライで、日本代表の池江璃花子選手が準決勝で敗退し、直後のインタビューのなかで「頑張ってきた分だけ無駄だったのかというレースでした」という発言をしたとき、テレビの前で「そんなことないよ!」と思った(あるいは声に出して言った)方がたくさんいたことだろう。努力はけっして無駄じゃない。

 では、同じ言葉を使いながらも、反対に、私たちがある程度以上の確信を持って「これは無駄だ」と判断する事柄にはどんなものがあるだろう。読者の皆さんが最初に思いつくのはどんなことですか。私は「食品ロス」だ。冷蔵庫のなかで期限切れにしてしまった食べ物を見るたびに、「ああ、またやってしまった」と恥ずかしくなるし、罪悪感を覚えます。ところが本書の第19章によると、食品ロスは多くの無駄のなかでも痛いところをついてくる問題ではあるが、「あらゆる人の腹を満たして、なおはるかに余りあるカロリーを私たちは生みだしている」という。それでも飢えに苦しむ人びとが世界におよそ八億人もいるのは、その多くが貧しい食料輸出国の人びとで、「食べる物がないからではなく金がないからだ」。この厳しい現実は、そう簡単に変えられそうにない。

 近年の猛暑と集中豪雨の頻発に、地球温暖化が恐ろしいことはもう充分にわかった。第21章から始まる「二酸化炭素のムダ」を読んでみると、やっぱり化石燃料の燃焼から発生するCO2は「ムダとしかいいようがない」が、これをどうにかするための方策もいくつか試行されており、解決への出口が見えないわけではないことがわかってくる。とはいえ、ここでも目の前に立ち塞がるのはコスト、経済の問題だ。せちがらい気分で読み終えるのは辛(つら)いので、第Ⅳ部「ムダの哲学」で、お金や時間の無駄や人の潜在能力の無駄、史上最悪の無駄とは? などのトピックを楽しみましょう。梶山あゆみ訳。(白揚社、2970円)

読売新聞
2024年10月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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