『個性的な人』オルガ・トカルチュク文／ヨアンナ・コンセホ絵

　トカルチュクはポーランド出身のノーベル賞作家で、なんと彼女の前職は心理療法家である。現役心理療法家の私としては、なぜ彼女がこの仕事をやめてしまったのかをいつか聞いてみたいところだが、今回の絵本はきわめて心理療法的だった。

　謎めいた寓(ぐう)話(わ)である。個性的な顔を持つ主人公がスマホの自撮りを繰り返すうちに顔を失い、代わりの個性的な顔を怪しいブローカーから買ってみたところ…あとは実際に読んでもらいたい。「個性とは何か」「私とは何か」という文学と心理学の接点となる問いがここにはある。

　この問いを暗示的で、断片的で、不穏な、しかし美しい絵たちが彩っている。心は美しさに包まれているとき、安心して不安になることができ、自身と向き合うことができる。訳者の解説も善き導きの杖（つえ）になっている。ぜひトカルチュクの仕掛けたアートセラピーに巻き込まれてみてほしい。小椋彩訳。（岩波書店、３３００円）

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