『SIZE(サイズ)』
- 著者
- バーツラフ・シュミル [著]/栗木 さつき [訳]
- 出版社
- NHK出版
- ジャンル
- 文学/外国文学、その他
- ISBN
- 9784140819678
- 発売日
- 2024/06/26
- 価格
- 3,080円(税込)
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『SIZE 世界の真実は「大きさ」でわかる』バーツラフ・シュミル著
[レビュアー] 為末大(Deportare Partners代表/元陸上選手)
大小より重要な「比率」
タイトルが「サイズ」なのだから当たり前だが、最初から最後までサイズの話ばかりである。こういった本は新しい見方を提示したり、大きなアイデアを示しそれを証明するために事実を集める形式のものが多いが、この本にはそれがない。ただ事実の羅列をする姿勢が清(すが)々(すが)しい。
8割の売り上げは2割の顧客が生み出しているなど、全体の8割は2割が占めると唱えることで知られるパレートの法則は、ばらつきが大きくあまり当てはまらないそうだ。また美の比率と言われる黄金比も検討した結果、存在するとは言いがたいとの結論に達しているという。
私の専門である陸上競技では、1980年代はカール・ルイスなど長身の選手が活躍し、「身長175センチあたりがスプリンターにとって最も良い」という仮説をもとに米国のHSIというチームは2000年代に多数のメダリストを輩出した。その後195センチのウサイン・ボルトが世界を席巻した。身長何センチが最もスプリントに効率が良いかはいまだに答えが出ていない。
サイズの中には当然国家も含まれる。まさに今日本は1億2800万人をピークに人口が減少している最中だ。そのことで働き手不足や、インフラ維持の難しさなど問題が発生している。だが、改めて本書を読むと、サイズとは比率の話だと気づく。「減る、小さくなる」と聞けば私たちは反射的に良くないことだと感じるが、サイズが大きくてもバランスが悪ければ成り立たない。適切な比率であることが良いバランスをもたらす。
HSIのコンセプトは「短身者の走りは違うバランスであるべきだ」だった。それまでになかった独特の頭を下げるスタートダッシュを身につけた身長175センチあたりの集団がメダルを量産した。理想のフォームは自らの身体のサイズの影響を受ける。小さくとも、そのサイズにとって合理的なバランスを身につければ十分に戦えるはずだ。栗木さつき訳。(NHK出版、3080円)