『アッシリア 人類最古の帝国』山田重郎著

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アッシリア 人類最古の帝国

『アッシリア 人類最古の帝国』

著者
山田 重郎 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784480076205
発売日
2024/06/07
価格
1,210円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『アッシリア 人類最古の帝国』山田重郎著

[レビュアー] 岡本隆司(歴史学者・早稲田大教授)

待望の書 盛衰論じきる

 「アッシリア」とは、おそらく誰でも見たこと聞いたことのある国名。その遺物は海外旅行で多く訪れる大英博物館の誇る代表的な所蔵品だから、写真・画像を寓(ぐう)目(もく)したこともあるだろう。

 それほど見聞に恵まれながら、具体的な知識に乏しい。評者も同じである。メソポタミア文明の研究は近年、進展がいちじるしく、一般の人にも読める手頃な体裁の書物も、次々刊行をみた。それでも「アッシリア」に専ら焦点をしぼった書籍は、寡聞にして知らない。その意味で、意想外ながら待望の新書ではある。

 そもそもアッシリアは、「最古の帝国」という「空前の歴史的現象」であった。誰もがアッシリアの名前を知っているのは、オリエントの「多民族」を「一元的に統治」する史上初の「帝国」となったからである。

 本書はその盛衰を「都市国家―領域国家―帝国」とわかりやすい構図で示し、最新の研究成果にもとづいて論じきった。都市国家アッシュルから説き起こし、アッシュルバニパルら著名な大王はもちろん、マイナーな君主たちの事(じ)蹟(せき)にもくわしい。

 その「帝国」は前七世紀末、いささかあっけなく崩(ほう)潰(かい)し、アッシリア本体も亡(ほろ)びてしまった。誰もアッシリアの具体像を知らないのは、その過程に対する説明が必ずしも十分でなかったからである。

 本書はそこにも周到な配慮を怠らない。政治の内情とその母胎をなす制度・組織におよぶまで、丁寧な説明を加えている。およそ淡々とした筆致、劇的な描写はごく少ない。しかしそれだけ叙述が精細で信頼できるのも、確かである。

 アッシリア帝国なかりせば、世界史が周知のように動いたかどうか、わからない。歴史家らしからぬ想像を逞(たくま)しくするのも、本書で得た知見のおかげである。あらためて大英博物館の展示を賞(しょう)翫(がん)し、世界史を考えなおしてみたい。(ちくま新書、1210円)

読売新聞
2024年9月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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