『しっぽ学』東島沙弥佳著

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

しっぽ学

『しっぽ学』

著者
東島沙弥佳 [著]
出版社
光文社
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784334104009
発売日
2024/08/20
価格
946円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『しっぽ学』東島沙弥佳著

[レビュアー] 遠藤秀紀(解剖学者・東京大教授)

 学際研究と称するのだが、たくさんの学問分野が集まって議論しているうちに、新たな知の世界が開けてくることがある。そんな「しっぽ学」の始まりを伝えるかわいい読み物として、本書を受け止めた私だ。

 〇〇学という新しい呼び名を聞くのが、無性に嬉(うれ)しい。もちろん、それが定着して残るか、いつの間にか消えてしまうか、最初は分からない。でも、存続しようが消滅しようが、新しいことをやってみようという発意が、人間臭くて楽しいではないか。

 さあ、書き手はしっぽをどう料理する気か。

 解剖学は、しっぽを背骨と筋肉の続きと見る。発生学は、胚子を観察することで、しっぽを定義しようと試みる。一方で、『日本書紀』に登場するしっぽのある人、古い絵巻物に描かれた奇妙なしっぽの生き物、それらは一体何なのか。現実のしっぽも異界のしっぽも、しっぽ学は隔てなく読み解こうと躍り出す。

 これほど豊かな知の遊びがあろうか。ここはちょっと浮世を離れて、しっぽ学に熱中してしまう。そんなあなたは、既に著者の罠(わな)にはまっているのだ。(光文社新書、946円)

読売新聞
2024年9月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク