『コンピューター誕生の歴史に隠れた6人の女性プログラマー』
- 著者
- キャシー・クレイマン [著]/羽田 昭裕 [訳]
- 出版社
- 共立出版
- ジャンル
- 自然科学/自然科学総記
- ISBN
- 9784320006195
- 発売日
- 2024/07/30
- 価格
- 2,860円(税込)
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『コンピューター誕生の歴史に隠れた6人の女性プログラマー』キャシー・クレイマン著
[レビュアー] 宮内悠介(作家)
ENIACの開発秘話
世界初の汎(はん)用(よう)コンピュータとして知られるENIAC――そのプログラミングは六人の女性が担っていた。本書は、この六人をかつて「再発見」した著者が、彼女らの語りを通して描く、ENIACと、そして彼女たちの物語だ。
前半は第二次大戦の戦中のこと。それぞれに背景の異なる六人が集まり、一方で、砲弾の弾道計算を目的としたENIACの開発が進んでいく。それが稼働をはじめるのは、終戦とほぼ同時期になる。一万八千本近い真空管が用いられた機械は、高さ二メートル半、長さ二十四メートルにわたり、全体はU字型に配置された。プログラミングは現代のようなプログラム言語ではなく、パンチカードですらなく、スイッチを操作したり重いケーブルで配線をほどこしたりといった作業によって行われた。
驚くべきは、この六人が回路図やブロック図といった限られた資料を分担して解析し、机上でその使いかた、つまりプログラミングの概念に至ったらしいことだ。さらに稼働後には、ブレークポイントの設定といった、現在でも用いられる技法が彼女たちによって発見されていき、その様子はスリリングですらある。
しかし公開実験の日、彼女たちが紹介されることはなく、それはあくまで「男たちのショー」となった。「これほど感動的な高揚と、これほど憂(ゆう)鬱(うつ)な消沈を続けて味わった日は、おそらく人生の中で他にないでしょう」とは六人の一人、ジーン・バーティクの言だ。彼女はフォン・ノイマンとの会議中に相手の間違いを指摘できるくらいだったようだから、この六人がいなければ、プログラミングの歴史はいくらか変わっていたかもしれないとさえ思えてくる。
ちなみに、彼女らの功績を矮(わい)小(しょう)化しようとする向きもあり、一部異論もあるようだが、六人のなかには、のちにさまざまな功績を残したベティ・ホルバートンも含まれているので、おおよそは信頼できると考える。羽田昭裕訳。(共立出版、2860円)