『雪渡の黒つぐみ』桜井真城著

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雪渡の黒つぐみ

『雪渡の黒つぐみ』

著者
桜井 真城 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784065354834
発売日
2024/06/19
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『雪渡の黒つぐみ』桜井真城著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

 今年(第18回)の小説現代長編新人賞受賞作。塩田武士、中島京子、薬丸岳という豪華な選考委員が揃(そろ)って高く評価したエンタテイメント時代小説だ。

 時は一六二五年(寛永二年)、三代将軍家光の治世が始まり、幕府による伴天連教(キリスト教)への迫害が強まる状況下で、物語の主役を務めるのは南部藩の若き忍者、その名は望月景信。目の上のたんこぶである敵国・伊達藩の動静を探る任務を帯びて闇にまぎれる景信は、とんでもない異能の持ち主だった。なんと七色の声色使いなのだ。録音再生できる機材が存在しない時代に、他者の声音を自由自在に「ねつ造」することができる。それは、誰からも疑われることなく狙った対象になりすまし、こちらの望むとおりに動かせるという究極の情報操作スキルだ。

 そんな言葉と声音がキーとなるお話だから、台詞(せりふ)の重要性もぐんと高くなる。なんと、その台詞が全て東北弁なのですよ。敵と対(たい)峙(じ)するのも、女と言い合いするのも北国訛(なま)り。何とも人間くさい味わいがあって、フィクションの忍者像に新しい個性を加えている。(講談社、1980円)

読売新聞
2024年9月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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