『安部公房写真集』安部公房著/近藤一弥編・デザイン

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安部公房写真集

『安部公房写真集』

著者
安部 公房 [著]/近藤 一弥 [編集]
出版社
新潮社
ジャンル
芸術・生活/写真・工芸
ISBN
9784103008125
発売日
2024/08/09
価格
15,400円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『安部公房写真集』安部公房著/近藤一弥編・デザイン

 成長する都市の華やかさの背後にある路上生活者、ゴミ捨て場、工場地帯などが並ぶ。ざらついた白黒写真に写る人々は、成長する都市の姿にどこか戸惑っているように見える。

 今年生誕100年を迎えた作家、安部公房(1924~1993年)は執筆のかたわら、カメラを片手に街を徘(はい)徊(かい)した。本書は未発表を含む約100枚を収める。

 何げない瞬間を切り取るスナップ・ショットを「何よりも重要な行為」と定め、「情景、空間が自分の中に残ってくれる」と語っていた。『箱男』をはじめ、現代社会の孤独を書き続けた作家の観察眼が、写真という分野でも色濃くにじむ。

 撮りためたネガフィルムは箱根の書斎の堅固なトランクに保管されていたという。没後30年以上を経て、沈殿していた作家の意識が読者に流れ込んでくる。小説や戯曲だけにとどまらない安部の新たな一面が掘り起こされたことを喜びたい。(新潮社、1万5400円)(創)

読売新聞
2024年9月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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