謎の男女、芸人、探偵、ゾンビに死神…「又吉直樹」の脳内まで表現された“いかつすぎる”エッセイの中身

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月と散文

『月と散文』

著者
又吉 直樹 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784048971317
発売日
2023/03/24
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

或阿呆の半生

[レビュアー] ピストジャム(芸人)


ピストジャムさん

慶應大学卒業後にお笑いの道を志すも、売れないまま40代に突入した芸人・ピストジャムは、文筆業に活路を求め、2022年にはエッセイ集『こんなにバイトして芸人つづけなあかんか』(新潮社)を発売した。

その半年後に発売されたのが、ピストジャムの先輩芸人で作家としても活躍する又吉直樹の10年ぶりのエッセイ集『月と散文』(KADOKAWA)だ。この作品を発売後、又吉は、ピストジャムを誘い、第一芸人文芸部を立ち上げることになる。

常に又吉の活動を注視してきたピストジャムは、このエッセイ集をどう読み、何を感じたのか。

以下に、又吉が編集長を務める文芸誌「第一芸人文芸部」創刊準備号から抜粋して紹介する。

***

『東京百景』以来10年ぶりとなる又吉直樹のエッセイ。しかもタイトルが『月と散文』。テンションがあがらへんわけない。2020年に文庫化された『東京百景』には「代田富士見橋の夕焼け」という百一景目がくわえられた。そのラストシーンは山を眺める光景で終わる。今回、その山の上に月がのぼった。

『月と散文』は信じられへん強度の「はじめに」から始まる。ずたぼろで泥まみれやのに、目ぇは死んでへん真っ直ぐな男の選手宣誓に脳天がしびれる。

章は【満月】と【二日月】の二つ。最初、なんで【満月】から始まって【二日月】やねん。普通は月の満ち欠けって言ったら、月がふくらんでいくんちゃうの? と思った。でも、読んでわかった。【満月】は無自覚に享受してた家族や友人との編、そして大切な人を失ってからの【二日月】。新月の翌日に現れるのが二日月。

喪に服す時間を行間で表現するなんて。卓越した文章表現のみならず、本を立体的に展開する技量に感服した。(松本大洋さんが描いたカバーと本体表紙の装画にも注目してほしい)

第一芸人文芸部
創刊準備号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

吉本興業

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