川谷絵音とカツセマサヒコが作品を「ハッピー」にしない理由とは?──カツセマサヒコ×indigo la End『夜行秘密』創作秘話対談

対談・鼎談

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夜行秘密

『夜行秘密』

著者
カツセマサヒコ [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575527759
発売日
2024/08/07
価格
792円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

バズることに悩む川谷絵音に共感して出た答えは?──カツセマサヒコ×indigo la End『夜行秘密』創作秘話対談

[文] 双葉社

 バンド「indigo la End」のアルバム『夜行秘密』をベースに、作家・カツセマサヒコが独自の解釈で紡ぎ出した連作小説『夜行秘密』が文庫化された。書籍は2021年に刊行され、音楽×小説のコラボが話題となり大ヒット。執筆当時、カツセさんはどんな思いで音楽から小説を生みだし、indigo la Endのメンバーはアルバムにどんな思いを込め、完成した小説をどう受け止めたのか。両者に創作秘話を聞いてみた。

※このインタビューは2021年の7月に『夜行秘密』HPにて公開されたインタビューの再録です。

***


左から長田カーティス (Guitar)、佐藤栄太郎 (Drums)、後鳥亮介 (Bass)、川谷絵音 (Vocal/Guitar)、カツセマサヒコ

〈indigo la Endのアルバム『夜行秘密』を、カツセマサヒコが小説化する──そんなアイデアが浮上したのは、まだアルバム制作中だった2020年9月頃。「音楽を小説にする」という両者がかつてやったことのない試みは、カツセにとっては大きな戦であり、indigo la Endの川谷絵音にとっては「ただただ楽しみだった」と語る。小説の内容はカツセに任された状態で執筆が進んでいったが、indigo la Endのメンバーが出来上がったものを読んだとき、想像を遥かに超える仕上がりに驚いたという。〉

カツセマサヒコ(以下=カツセ):デビュー作『明け方の若者たち』の中にindigo la Endの名前を登場させたくらい好きだったので、indigo la Endのバイオグラフィの一部分に自分の書いたものが載るという重圧は大きかったです。「俺でよかったんですか?」って、ずっと思ってました(笑)。

川谷絵音(以下=川谷):嬉しかったですよ。前作でバンドを使ってくれたことも知っていたので、この話を聞いたときには「すごくぴったりだな」と思いました。どういうふうにアルバムが小説になるのかは全然わからなかったから、ただただ楽しみにしていましたね。14曲だから14篇の短編なんだろうなと思って読み進めたら、全部が繋がってひとつの長編になっていたのが予想外で。本当に面白くて、読んでいる途中から自分の作品から書かれているということを忘れちゃうくらいでした。僕の場合、曲を完成させたらもう自分の手元を離れる感覚なので、「手を加えられるのが嫌だ」といった固定概念もないし、誰かが二次創作したものはまったく新しいものとして楽しめるんですよね。

佐藤栄太郎(以下=佐藤):「自分らの楽曲にかかわるものはこうあるべきだ」って思い込むのは可能性を狭めることにもなるので、楽曲からなにか作られるときはむしろ、むちゃくちゃになった方が面白いなって、心の奥底では思ってますね(笑)。「小説になる」と聞いて、最初は楽曲を補完する感じになるのかと思いきや、まったく想像していなかったものになっていて本当にすごいと思いましたし、読んでいてすごく楽しかったです。特に後半が、グッとのしかかってくる感じがありました。過去の曲名とかもちりばめられ、愛がある方に書いていただけて、ファンのみんなにも喜んでもらえると思います。

長田カーティス(以下=長田):音楽を小説にするということが僕にとっては理解の外で、「本当にそんなことできるのか?」と最初は思っていたんですけど、出来上がったものを読んでみると、音楽の世界観をちゃんと読み取った上で書いてくれたことがわかる作品でした。僕自身、本を読むのが苦手なんですよ。自分の意思で本を読んだのが、多分、中学3年生が最後(笑)。そんな僕ですら飽きずに一気に読めました。

後鳥亮介(以下=後鳥):僕は物語というもの自体がすごく好きで。カツセさんのコラムとかも読んでいたので、アルバムが小説になると聞いたときは、恋愛をベースにしたものになるのかなと思っていたんですけど、だんだん人の怖さが見える話にもなっていき、ギミックがたくさんあって飽きずに読めました。もしかしたらこの曲はダークな側面も持っていたのかもな、といった気づきもありましたね。

カツセ:『明け方の若者たち』の映画化の話が進む中で、原作に忠実であるだけでは、映画として魅力的じゃないなと思うようになったんです。小説なら小説の、映画なら映画ならではの表現の仕方があるはずで、それを活かすようにしてほしいと。同じように、楽曲そのままの世界を14篇作っても原作である音楽には勝てないから、音楽の世界から広がりをもたせて、小説ならではの表現にすることを強く意識しました。

テキスト:矢島由佳子 撮影:鹿糠直紀(2iD)

COLORFUL
2024年8月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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