小豆島での「ヤギ飼い」の暮らしを四季の変化と描いたイラストルポ

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私はヤギになりたい ヤギ飼い十二カ月

『私はヤギになりたい ヤギ飼い十二カ月』

著者
内澤 旬子 [著]
出版社
山と溪谷社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784635064019
発売日
2024/08/19
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

小豆島での「ヤギ飼い」の暮らしを四季の変化と描いたイラストルポ

 小豆島在住の文筆家・イラストレーターの内澤旬子さんは、可愛らしいヤギたちと暮らしている。本書はそんな著者が島の四季折々の自然の移ろいを、「ヤギの世話をする」という視点から描いたイラストルポだ。

 5年前、著者が初めて飼い始めたのは雌のカヨ。最初は自宅の軒下につないでの飼育だったが、繁殖によって次第に仲間が増え、茶太郎、玉太郎、銀角、雫の5頭に。著者はビニールハウスの廃屋を借りて小屋も作り、愛嬌あるヤギたちを中心とした日々を送るようになった。

 そのなかで、何よりも心を砕いてきたのが餌の問題である。ヤギにはそれぞれに餌の好き嫌いがあり、農薬が付着しているとお腹を壊すことも。そこで細心の注意を払いながら島に生える草を見続けるうち、著者は小豆島の自然の変化に敏感になっていった。「ヤギ飼い」ならではの眼差しで島の自然に接していると、これまで気にも留めなかった雑草の一つひとつが、〈それぞれの生命サイクルで絡み合うようにして野原を作っている〉ことが実感として分かってきたからだ。そのことに気づいていく著者は、今では島の自然が〈万華鏡を眺めているようで飽きない〉という境地になったと書いている。

 人間社会では嫌われ、刈り取られたり農薬で駆除されたりする雑草も、ヤギにとっては好物である。また、5頭のヤギは餌の好みも異なるため、彼らを喜ばせようとすればするほど、著者の目には小豆島の自然の細部が映るようになっていく。そうした様子を印象的な場面として描いたイラストもとても魅力的だ。

 ヤギの好む草木を集め、群れの様子を観察する。ときにはヤギ同士の関係に悩み、考え抜いた末に対策を練ることもある。

 ヤギにとっての幸せとは何か――。そのことを真剣に考え、溢れんばかりの愛情をもって世話をする著者の姿に、何とも言えず心惹かれる一冊だった。

新潮社 週刊新潮
2024年10月3日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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