『帝国アメリカがゆずるとき 譲歩と圧力の非対称同盟』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『帝国アメリカがゆずるとき 譲歩と圧力の非対称同盟』玉置敦彦著
[レビュアー] 遠藤乾(国際政治学者・東京大教授)
同盟のパズルを解明
重厚な学識に基づく、ユニークな同盟論である。
同盟というのはそもそも不思議な現象だ。他国の厄介をお互いに抱えること必至である。しかしもっと不思議なのは非対称同盟だろう。力に差がある主導国からすると、追随国の軍事力等(など)なくとも、自ら様々なことができてしまうのに、そんな関係を長期にわたって結ぶ。
加えて主導国は追随国にときに譲歩する。基地を返し、援助を施し、要求を取り下げるのである。それはまるで「尾が犬を振る」ようだ。なぜそのようなことが起きるのか。新進気鋭の国際政治学者である玉置が取り組むのは、そのパズルである。その際、世界的な主導国である米国を中心に据え、帝国論の蓄積を援用しつつ、日本、韓国、フィリピンとの同盟を検討してゆく。
もちろん主導国は、望ましい国際秩序を維持するため、役に立つ追随国を自陣営に留(とど)め、うまく使いたい。そのための手段が圧力と譲歩だ。ただし、相手も主権国家である。主導国の意向が簡単に通るわけでもない。そこで、追随国における提携勢力(と対抗勢力の力関係)が鍵になってくる。
著者は、ここで主導国は「提携のディレンマ」に直面するという。自国に有利に追随させようと圧をかけねばならないが、追随国の提携勢力、ひいては同盟が壊れては元も子もない。だから「ゆずる」という選択肢が出てくる。そんなとき、提携勢力が譲歩に値する信頼性と安定性をもつのかを見極めることとなる。この主導国の認識こそ枢要なのだ。
この本は、理論を駆使し、歴史を縦横に駆け巡り、非対称同盟をめぐる政治力学を考え抜いた労作だ。その実践的な含意は、西欧から東アジアまで、ひろく感じられよう。言うまでもなく、米国という揺れ動く巨人を相手に非対称同盟を結ぶ日本にも、生き方の再考を迫る。(岩波書店、5720円)