『日本の文様図典』濱田信義編著

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日本の文様図典

『日本の文様図典』

著者
濱田信義 [著]
出版社
玄光社
ジャンル
芸術・生活/写真・工芸
ISBN
9784768318751
発売日
2024/06/29
価格
3,300円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『日本の文様図典』濱田信義編著

[レビュアー] 小池寿子(美術史家・国学院大教授)

太古から近世 204種の美

 縄文土器から浮世絵まで、総数700余点、文様204種を総覧できる文様図典。内訳は植物の文様59種、鳥類魚介類を含めた動物31種、自然現象18種、器物41種、幾何学23種、様式14種、吉祥18種を数える。それぞれに器物、武具、調度品、装束、絵画などの例が挙げられ、わくわくしながら頁(ページ)を繰り、つくづく眺め入る。好みの文様や日常にも見られる文様を探すのも愉(たの)しい。

 色絵や染(そめ)付(つけ)磁器もさることながら、圧巻は着物だ。山水、花鳥風月や幾何学文様はむろん、文学に取材した情景など、着物は絵画的だと改めて納得する。衣(い)桁(こう)にかけられた着物は、屏(びょう)風(ぶ)絵(え)のように空間を彩ったであろう。宮廷の儀式や年中行事などの知識「有(ゆう)職(そく)」は様式文様として分類され、亀甲文や紗(さ)綾(や)形(がた)文など、今日にも受け継がれていることがわかる。

 装飾は、それ自体が独立した形象ではなく、器物や衣(い)裳(しょう)、楽器や仏具、鐙(よろい)や鞘(さや)、さらに屏風などにも用いられ、そこで新たな命を得る。装飾の生命とは、着彩の土台となる支持体によって活(い)かされ、また支持体を活かす力なのだ。西洋でも同様だが、圧倒的に日本の文様の種類は多い。四季折々の変化は、多種多様な植物文を生み出す風土を育んだのである。

 シルクロードを経た渡来文化を受容した飛鳥・奈良時代から和様化に華やいだ平安時代へ、さらに武家文化が開花する鎌倉時代へ、茶華道の基盤ができる一方、南蛮文化や庶民文化に彩られた安土・桃山時代、そして町人文化など百花繚(りょう)乱(らん)の江戸時代へと変遷し、文学はもとより能、狂言、歌舞伎も装飾の展開の場となった。琳派の絢(けん)爛(らん)豪華な意匠も七宝や漆器の工芸品も代表的な日本美を形成した。

 本図典は文様史を記すものではないが、各図版の解説を読み込むと、自(おの)ずと文様の歴史的変遷や、何より日本文化を知ることが出来る。驚くべきは図版の数だけでなく、巻末の文様入り索引と図版データだ。膨大な労力と文様へのこだわりに感服する。日本の美意識の結晶が手中のものとなる、手元に置きたい一冊だ。(玄光社、3300円)

読売新聞
2024年9月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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