『人口減少時代の再開発』
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都市の再生、地方の創生
[レビュアー] 佐藤健太郎(サイエンスライター)
バブルの頃、狙った土地を買い上げるため、住人に各種の嫌がらせを行う「地上げ屋」が暗躍した。その地上げ屋が、令和の今になって再び活動を始めているという。高度成長期に建てられた建造物は今や老朽化しており、その建て替えのために住民に退去を迫る例が増えているのだ。
『人口減少時代の再開発 「沈む街」と「浮かぶ街」』は、現在各地で盛んに行われる再開発の実態に、NHK取材班が切り込んだ一冊。一見華やかな再開発の裏側には、それぞれ異なる事情がうごめいているのだ。
再開発にかかる莫大な費用は、高層化で生まれる新たな床をオフィスや住宅として販売することでまかなわれる。このため多くの再開発は、高層化前提の計画にならざるを得ない。しかしコロナ禍以降のオフィス需要の低下、工事費用の高騰などにより、このスキームがうまく回らないケースが増えている。特に地方都市でこの傾向は顕著であり、市民を悩ませている。
新幹線開業を機に再開発に挑んだ福井市、人口増で学校や病院不足に悩むさいたま市、線路跡の空き地を巧みに生かした東京・下北沢、異例のタワマン規制を行った神戸市など、成功例も失敗例も紹介されている。中でも身の丈に合った開発を成功させた、岩手県紫波町の事例は示唆に富む。
都市計画には百年の計がなければならないが、それを担える人材はどれほどいるのか考えてしまう。街作りに関わる全ての人に読んでもらいたい一冊だ。