『東京のちいさなミュージアム案内 美術館・博物館・文学館150』増山かおり著

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東京のちいさなミュージアム案内-美術館・博物館・文学館150 –

『東京のちいさなミュージアム案内-美術館・博物館・文学館150 –』

著者
増山 かおり [著]
出版社
エクスナレッジ
ジャンル
歴史・地理/旅行
ISBN
9784767832920
発売日
2024/05/28
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『東京のちいさなミュージアム案内 美術館・博物館・文学館150』増山かおり著

[レビュアー] 遠藤秀紀(解剖学者・東京大教授)

百花繚乱「はまる」出会い

 そこで仕事をする人間から見ると、博物館と日本の関係というのは、かなり滑稽である。

 この国に、博物館とは資料を蓄積して学問と文化の基礎を創るものだという本質論は通用しない。他方で、博物館を消費者が消費する商品だと貶(おとし)めることには、とても熱心な国だ。博物館をときに金儲(もう)けの玩具とし、ときに合理化対象として地力を削(そ)ぐ経営や政策の姿は、枚挙に暇(いとま)がない。昨今報じられる、大きな館がクラウドファンディングで資金を集めさせられるという話題は、国全体で博物館を干上がらせてきた愚策の、必然の帰結なのだ。

 そんな醜態の一方で、街には「博物館」を看板に掲げた、見に行く場所はたくさんある。首都周辺にも、面白そうな博物館、美術館、文学館が数(あま)多(た)あるが、実は、多くは地味で「ちいさい」。普通の人には玄関口を見つけられない館を採り上げ、その隠れた魅力を追い、そこへ人々を誘(いざな)おうとする筆が、素敵だ。

 有名どころの博物館も掲載されているのだが、小規模なのに「深みにはまってしまった」館を集めたところが、本書の真骨頂だ。読者が感じる醍(だい)醐(ご)味は、誰も知らないような博物館に紙上で接触できることだろう。博物館好きには、たまらない出会いが満載されている。

 硝(ガラ)子(ス)細工とその書籍の博物館、民藝品と空間美の調和で魅する美術館、翡(ひ)翠(すい)の原石にこだわる博物館、文房具があふれる資料館、週刊誌の表紙原画の美術館、鞄(かばん)ばかりを世界中から集めた博物館、ある町に集った文士たちの資料館……と、ミュージアムの百花繚(りょう)乱(らん)である。まさに異界からのラインナップ。読者は気づくだろう。博物館は、そもそも収集癖と執着心の混(こん)沌(とん)なのだ、と。

 実際に館を訪れるもよし。紙の上で館めぐりをするもよし。多くの人に本書を楽しんで頂こう。博物館とは一体何なのか、思慮するきっかけとしてほしい一冊だ。(エクスナレッジ、1980円)

読売新聞
2024年9月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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