芸人たちが自著で時代を活写 脳内にこびりつくダジャレも

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

芸人本書く派列伝

『芸人本書く派列伝』

著者
杉江 松恋 [著]
出版社
原書房
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784562074341
発売日
2024/08/27
価格
2,640円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

芸人たちが自著で時代を活写 脳内にこびりつくダジャレも

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

 著者が本業のミステリー書評のみならず、落語や浪曲にも造詣が深いことは知っていた。しかしここまで広範な芸能に通じているとは思いもせず、いま自らの不明を恥じている。そして講談、漫才、コント、諸芸、TV、ラジオの芸人がここまでの量の本を書いているのかと驚いている。私も本書く派の端くれでありながらだ。

 本書はメールマガジン〈水道橋博士のメルマ旬報〉に117回にわたって連載され、その3分の2ほどをまとめたものだ。本欄読者には好きなジャンルと贔屓の芸人がそれぞれにいるだろうから、本は個別に選んでもらうとして、脳内にこびりついて離れないダジャレを本書に再発見したので、紹介したい。

 ビートたけしが2019年に文藝春秋から出した小説『キャバレー』に出てくる、ケーシー高峰が発するものである。

 お笑いブーム前夜の1970年代末、下積みの長い綾小路きみまろがケーシー高峰に圧倒されるシーンだ。

「イラン革命の最高指導者を、次の三つから選びなさい。ホメイニ、したこた、したばってん」

「リビアの独裁者を次の三つから選びなさい。カダフィ、馬鹿よね、お馬鹿さんよね」

 もちろん小説の本筋は別にあり、ダジャレは添え物だが、あの時代をこのくだらなさが見事に活写していて、凄い。ケーシー高峰は、これでキャバレーの客席に爆笑の渦を巻き起こしたのだ。そして司会の綾小路きみまろは、なおもくすぶり続ける。彼が世に出るのは90年代の後半である。

 著者は冒頭「芸人はおもしろい。だが、芸人本もとてもおもしろいのである」と言い、おわりに「芸人本を読み、そして書評をし続けて本当によかったと思う」と述べている。この文言に喜ばない芸人はいないだろう。そしてこれより更に、本書く派の芸人が増えるのは間違いないと断言できる。

新潮社 週刊新潮
2024年9月19日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク