『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』
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覆面作家はペンで刺す
[レビュアー] ピストジャム(芸人)
そんな社会のレールからドロップアウトした半妖怪の僕でも、この小説は響いた。他人と比較して得られる安心や幸せが、いかにもろいものか。SNSが氾濫するいまやからこそ、いったん立ち止まって考えやなあかんことがある。
これは東京に住んでる人、今年30歳を迎える人、東京で挫折した人にかぎった話じゃない。すべてはわかりやすい記号として書かれてるだけで、地方であろうが外国であろうが同じ悩みや苦しみを抱えてる人がいる。
東京タワーの光がまばゆければまばゆいほど、より深く濃い影が落ちる。この小説には、そのコントラストが余すところなく打ち出されてる。
この作品は、自己肯定感を映し出す鏡。
「エモい」は「もののあはれ」とほぼ同義やという記事を目にしたことがある。これは、時代が変わっても人の感覚はそんなに変わらへんというあらわれ。昔の人もおんなじような環境で、おんなじようなことを感じてたんやろうなと思うと、自分はこの小説を「いとをかし」と楽しめる人間でありたいと思った。