『企業変革のジレンマ 「構造的無能化」はなぜ起きるのか』宇田川元一著

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企業変革のジレンマ

『企業変革のジレンマ』

著者
宇田川元一 [著]
出版社
日経BP 日本経済新聞出版
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784296115921
発売日
2024/06/25
価格
2,420円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『企業変革のジレンマ 「構造的無能化」はなぜ起きるのか』宇田川元一著

[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)

経営側と現場 対話が鍵

 日本企業の変革機運は高まっているが、思うようには進んでいないのが現状であろう。変革に成功した企業もあるが、緩やかな衰退に悩み閉塞(へいそく)感を感じている企業も多いのではないか。評者も改革の難しさを痛感した経験がある。変革は掛け声だけで進むほどたやすくないのだ。

 著者は経営戦略論や組織論を20年以上にわたって研究する経営学者。なぜ企業の変革が進まないのかを鋭く指摘し打開策を語る。

 改革が進まないのは、事業部のメンバーの理解や意欲が足りないという、経営者が考えがちなことが主因ではなく、掛け声だけの変革には合理性がないように見えるからだという。改革には中長期視点に基づく複雑な問題解決が必要だが、短期的な目標達成との間にはジレンマが生じやすい。変革へのコンセンサスがあり、具体的な道筋が明確に示されていない限り、見通しやすい短期的課題への対処の方が、改革に伴う複雑な問題を紐(ひも)解(と)くより、先決問題に見えてしまうのである。あるいは変革への試行はあるものの、例えば人事部門の施策に事業部が反発して動きがバラバラとなるケースが起き、実を結ばないなど、問題解決の表層化が生じる。この状態が続くとメンバーの思考の幅と質が制限され目先の問題解決を繰り返し、人も組織も疲弊する「構造的無能化」が発生する。

 これが変革を阻むというのである。この構造要因を打破するためには経営層や変革支援部門と現場との真(しん)摯(し)な対話が鍵となる。これを通じてEVの普及の見通しのように解釈が複数存在する状況の多義性、事業部の余裕のなさや部門間のコンフリクトなどの複雑性、施策を打ち出しても実行しない現場の自発性の欠如の三つの壁を乗り越えなければならない。このプロセスをクリアしてこそ変革を進めていくことが可能になるという。慢性疾患にも似た衰退に苛(いら)立(だ)ちを感じ変革が思うように進まないことに悩む経営者や幹部の方々に熟読をお勧めしたい力作。(日本経済新聞出版、2420円)

読売新聞
2024年8月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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