本屋大賞翻訳部門受賞作ほか、年齢を問わず、同じ本で感想をシェアする楽しさを味わう

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本屋大賞翻訳部門受賞作ほか、年齢を問わず、同じ本で感想をシェアする楽しさを味わう

[レビュアー] 北村浩子(フリーアナウンサー・ライター)

 無表情の少年の顔が大きく描かれたカバーイラストが目を引く。ソン・ウォンピョン『アーモンド』(矢島暁子訳)の主人公は失感情症の高校生・ユンジェ。喜怒哀楽のみならず恐怖すらもほとんど感じることができない彼は、祖母と古本屋を営む母に愛されて暮らしていた。しかしユンジェの十五歳の誕生日に起きたある事件が、三人家族の小さな生活を壊してしまう。

 ユンジェはどんな悲劇的な出来事も節度を持って淡々と語る。世界に心でかかわれない戸惑いを抱えつつ、母から教わった「普通に見えるふるまい」で日々をやり過ごす。やがて彼の人生に多くの人々が入り込んでくる。古本屋の二階でパン屋を営む寡夫、ユンジェに頼みごとをする大学教授、その息子のゴニ、同級生のドラ。時に痛みを伴う彼らとの接触がユンジェに感情の手触りを教える。目覚めのようなその変化が読者の心を強く揺さぶるのは、彼らもまたユンジェによって変わるからだ。

 本作は2020年の本屋大賞翻訳小説部門で第一位となり、親子で読める作品としても話題を呼んだ。評者は時々、高校の読書会に参加させてもらって高校生と話をするのだが、同じ本を読んで感想をシェアする楽しさに年齢は関係ないといつも思う。以前、非常に盛り上がったのが恒川光太郎『夜市』(角川ホラー文庫)。妖怪たちがあらゆる物を売る夜市で、かつて弟と引き換えに「野球の才能」を買った青年が、弟を取り戻すため再び夜市に足を踏み入れる。後半の展開にどれだけ興奮したか、驚かされたかについて賑やかに言い合ったことを今も時折思い出す。

 お互いに本を薦め合う「ほんとも(本友達)」でもある姪っ子に紹介して大好評だったのは服部まゆみ『この闇と光』(角川文庫)。国王である父と別荘で暮らす盲目の姫レイアの物語と思いきや、「れいちゃん」と彼女を呼ぶ「母」が中盤で登場し、レイアの、そして読者の頭の中に構築された世界が反転する。寄る辺ない哀しみと、残酷さをはらんだ緊張感が最後の一行まで続く名作だ。

新潮社 週刊新潮
2024年9月5日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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