『日本復帰50年 琉球沖縄史の現在地』歴史学研究会編

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日本復帰50年 琉球沖縄史の現在地

『日本復帰50年 琉球沖縄史の現在地』

著者
歴史学研究会 [編集]
出版社
東京大学出版会
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784130230834
発売日
2024/06/04
価格
3,960円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『日本復帰50年 琉球沖縄史の現在地』歴史学研究会編

[レビュアー] 岡美穂子(歴史学者・東京大准教授)

本土への愛憎 若い視点で

 今年の夏もあの戦争にまつわる話題が尽きない。実体験として知る世代が減少する中、人々の証言や記録を残す取り組みは盛んになっている。本土の日本人にとっては、79年前に終わった戦争だ。しかし沖縄の人たちの感覚は、本土の人間のそれとは異なるに違いない。果たして私たちはその体験や記憶、そこから来る想(おも)いに寄り添えているのだろうか。

 琉球・沖縄に関する近現代の歴史学は一言では言い表せない関係性にある「日本」との愛憎の下で発展してきた。本書の主題は「沖縄の日本復帰(1972年)」である。本土の人間にとって沖縄返還は、主にナショナリズムの視点から単に「めでたい」ことであったが、沖縄の人にとっては、自身の生活に直結する問題であった。でありながら、米軍基地の撤収という悲願は叶(かな)わず、いざ戦争となれば最前線に置かれることになる人々の絶望は、先の大戦の記憶と相まって想像を絶するものであった。

 江戸時代の琉球王国は島津氏の「琉球侵攻(1609年)」以来、薩摩藩と中国に対する二重の従属性を特徴とした。江戸幕府からは、その「武威」を演出する装置としての「異国」として認識されていた。「琉球処分(1879年)」により正式に日本国の一部となった後も、沖縄の人々の心には複層のアイデンティティが宿っていたはずである。沖縄の歴史学研究は、日本の中心的な歴史学の影響を受けつつも、両者の政治的な関係性を強く受けて発展した。

 本書の特徴として、著者たちが若い世代であることが挙げられる。沖縄の現代社会の問題は、その歴史と深い関係にあり、今なお、米国やアジアをめぐる世界情勢の影響を受けやすい。ゆえにその研究には過去を静謐(せいひつ)に見つめ、現代と未来への課題意識を強く持つ手腕が求められる。琉球・沖縄史研究の厚い蓄積が若い世代を触発し、本書で紹介されるようなデジタル・アーカイブの取り組みなど、「知の継承」と公益化が進んでいるのは、歴史学の未来を考える上で、大いに参考となる。(東京大学出版会、3960円)

読売新聞
2024年8月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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