「ホリエモンが来るからいいところを見せよう」梨田元監督が明かす近鉄バファローズの最期…プロ野球が揺れた2004年を追う

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2004年のプロ野球

『2004年のプロ野球』

著者
山室 寛之 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103527329
発売日
2024/05/16
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

球団合併、新規参入、身売り プロ野球「異常な1年」の真実

[レビュアー] 梨田昌孝(大阪近鉄バファローズ元監督・野球解説者)

 2004年はプロ野球の球団合併、新規参入、身売りが立て続けに起こった異常な1年でした。あの年、大阪近鉄バファローズの監督だった私は、オリックス・ブルーウェーブとの合併により球団が消滅する形でユニフォームを脱ぎました。この本を読むと、激動の日々を昨日のことのように思い出します。

 オーナー企業の近鉄の経営状態が苦しいのはわかっていましたので、球団の命名権を売り出した2月頃から「身売りはあるな」と思っていたんです。買収に名乗りを上げた堀江貴文さんが大阪ドームに観戦に来た時、試合が始まる前の円陣で「次のオーナーが来られているから、いいところを見せよう」と話したこともありました。

 ただ、まさか合併とは思いもしませんでした。2つの球団が1つになるわけですから、選手もスタッフも半分が職を失うことになります。合併より身売りのほうがいい。

 合併交渉が表面化したのは6月。7月のオーナー会議で大筋が承認され、9月には実行委員会で正式に承認されました。その間、選手もスタッフもがんばってくれたのですが、どこか魂が抜けてしまったような状態でした。私も「お金をもらって試合を見せる以上、ひとつのボールに集中してプレーしよう」と励ますものの、みんなの不安が伝わってきて、つらいんです。

 8月になるとシーズン終了後の秋季キャンプの話もぼちぼち始めるのですが、先が見えないから連れていく選手も選べない。八方塞がりでした。近鉄だけでなく、あの年、激震に見舞われたチームには特有の事情がありました。当時ははっきり報道されていなかった深層が、この本を読むとよくわかります。

 私も何度か取材を受けましたが、伝聞ではなく本当のことだけを教えてほしい、自分が理解できるまで教えてほしいというのが著者のスタンス。話しやすい環境をつくってくれたうえで「それをいつ、どのような形で知りましたか?」「その時の心境は?」と何度も何度も丁寧に聞かれます。あの情熱、ねちっこさ、感服しました。

 思えば、北海道から九州まで球団があるパ・リーグになったのは2004年です。ファンのありがたさ、ファンサービスの大切さを各球団と選手が学んだのも、あの年。一時期取り沙汰されたように球団数が「8」まで減っていたら、日本のプロ野球はやせ細り、大谷翔平選手も生まれず、WBC優勝もなかったのではないでしょうか。あの年、プロ野球は生き延びたのです。

新潮社 週刊新潮
2024年8月29日秋初月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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