『ルール?本 創造的に生きるためのデザイン』菅俊一/田中みゆき/水野祐著

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ルール?本

『ルール?本』

著者
菅俊一 [著]/田中みゆき [著]/水野祐 [著]
出版社
フィルムアート社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784845921447
発売日
2024/05/18
価格
2,640円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『ルール?本 創造的に生きるためのデザイン』菅俊一/田中みゆき/水野祐著

[レビュアー] 為末大(Deportare Partners代表/元陸上選手)

決まり 決め続ける覚悟

 この夏の五輪でルールについて考えた人は多いだろう。柔道のルールはどう決まっているのか。審判の判断が正しいかはどこで判断すればいいのか。男性ホルモン・テストステロンの値が高い性分化疾患の女性アスリートが、女性枠で試合に出ることは認められるべきか。

 スポーツの勝敗はルールに左右されている。だからこそ日々ルールについて検討され、ルールが変更されたり、新しいルールが設定されたりする。ルール次第で有利になる国もあれば不利になる国もあるから、争いは激しい。

 本書は2021年に話題を呼んだ企画展「ルール?展」から生まれた。ルールを問う展示がされ、通常の展示会では起きえないような問題も起きた。展示の最中にルールが変更されるなど今までにないものになった。その振り返りも含めディレクターが執筆し、識者も寄稿している。

 哲学者のトマス・ホッブズは、人間が自由に振る舞う自然状態は、お互いのものを奪い合うような「万人の万人に対する闘争」になると考えた。お互いを傷つけあうよりはましだと、人々が自由を一定程度諦め、譲渡し人を統治する構造を作る。それをリヴァイアサンと呼んだ。国家権力がこれにあたるだろう。問題はそのリヴァイアサンがどういうルールに基づいて力を行使するかだ。民主国家の場合リヴァイアサン自体がそれを決めることはできないから、人々が話し合って決めるしかない。リヴァイアサンを縛るルール。ここでもルールが課題となる。

 一方で、明文化されないルールも存在する。書かれていないが誰もやらないことだ。ルールに抵触しなければ問題ないと、都知事選の候補者ポスターに不適切と思われる掲示がされるなど、SNS時代には隙をつく手法が増えた。

 ルールを守ることに長(た)けていると言われる日本人だが、校則ですら変える時は混乱する。激しく変化する時代には、ルールを変えるだけでなく、変え続ける覚悟が必要になるだろう。(フィルムアート社、2640円)

読売新聞
2024年8月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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