『結婚の社会学』阪井裕一郎著

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結婚の社会学

『結婚の社会学』

著者
阪井 裕一郎 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784480076144
発売日
2024/04/10
価格
1,100円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『結婚の社会学』阪井裕一郎著

[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)

「創られた伝統」目から鱗

 序章にこうある。

「社会のあり方や人間の行動を解明するために常識を疑うのが社会学」「個人と社会の関係を問う」

 本書は社会学の仕組みを用いて、わたしたちの中にある当たり前や常識、ルールやマナーだと思っていたものを小気味よく揺さぶっていく。読みながら、入っているとは思わなかった鱗(うろこ)が目からボロボロ落ちた。

 少子化の原因は女性の社会進出や、未婚・晩婚化にあるのか。

 結婚という「創られた伝統」。

 変化を続ける結婚という制度とその目的。

 マッチングアプリはむしろコミットメントを遠ざける?

 同性婚や夫婦別姓問題に対する批判にどう答えていけば良いのか。

 なぜ友人は家族になれない、と思われているのか。

 独り身でいることは、足りないこと、劣ったこと、かわいそうなことなのか。

 未来の結婚はどうなっていくのか。

 本の中でジェンダー法学者のマーサ・A・ファインマンの言葉が引用されている。「どうして結婚が国家の援助と公的扶助を受けるために支払わなくてはならない入場料にならなければいけないのか。どうして家族を、結婚関係をつうじて定義しようとするのだろうか」

 結婚が守るべきは、共同体か、血か、家名か、国か、個人か。社会が変わり、価値観が時代を反映し、人と人の結びつきの形も多様になっていく中で、結婚だけがまだアップデートされていない。そのことに気づかされる。

 結婚に関して広範に書かれた本書をまず読み、興味を持ったトピックに関しては巻末の読書案内を参考に進んでもいいかもしれない。

 結婚しているしていない、するつもりがあるないにかかわらず、広く読んで欲しい一冊だ。(ちくま新書、1100円)

読売新聞
2024年8月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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