『今日の人生3 いつもの場所で』
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『今日の人生3 いつもの場所で』益田ミリ著
[レビュアー] 鵜飼哲夫(読売新聞編集委員)
なんでもない日常、なにげない今を、益田ミリさんが描くと、そっと輝く。
遊歩道を横切る青虫の小さな歩みと人間の歩幅の大きな違いへの気づき。散歩中の犬を、車の助手席に乗せられている犬が見た、その瞬間の生の交錯……。見ているようで気にとめてはいない一瞬が、さりげないタッチで切り取られると、かけがえのないものに見えてくる。
累計18万部突破のシリーズ第3弾は、コロナ禍で「新しい日常」が叫ばれた頃の作品が並ぶ。マスクの下に笑顔が隠れてしまった、しんどい時期。早く元に戻ってほしいと思っていた人は多かろうが、主人公はこう思う。「“元の生活”っていうけど、そもそも人生に同じ時間は二度となく」「いつでも今は今……」
確かにそうだ。あれこれ考えてばかりいると過去や未来にとらわれ、今が見えなくなってしまう。生きるとは「今」の積み重ねなのだ、と思った今日の人生。(ミシマ社、1760円)