『葬儀業』玉川貴子著

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葬儀業

『葬儀業』

著者
玉川 貴子 [著]
出版社
平凡社
ジャンル
産業/商業
ISBN
9784582860597
発売日
2024/05/17
価格
1,100円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『葬儀業』玉川貴子著

[レビュアー] 遠藤秀紀(解剖学者・東京大教授)

 年間一兆五千億円以上というのが、日本の葬儀業の産業規模だそうである。人は必ず死ぬものであるから、すぐに消失するような業界でもなかろう。そんな葬儀業の過去を概観し、いまを考える、葬儀業界研究の「入門書」だ。

 本書は日本人の精神世界の特質にはあまりふれないが、現代日本人は、世界でもっとも宗教・信仰から隔たった国民だと、私は考えている。日本人は勤勉に働くことで人生から不安を払(ふっ)拭(しょく)し、日常から神や仏を駆逐したのではないか。だがそうなると、暮らしの節目や慶事弔事に、信仰から分離した「道徳の形式」が必要となる。それが、現在の初詣であり、結婚式であり、クリスマスの喧(けん)騒(そう)であり、それこそ葬儀なのだと、私は受け止めている。

 そんな日本が、行政から、催事ビジネスから、家族の有り様から、文化と「心」から、死者を送る儀式を各時代にどう変化させてきたのか。それを掘り起こすのが、本作の狙いだろう。

 広く本書を勧めたい。普段意識されない葬儀の周辺を、日本人と日本社会を背景に、たまには思慮するきっかけとしてはいかがか。(平凡社新書、1100円)

読売新聞
2024年8月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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