『葬儀業』
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『葬儀業』玉川貴子著
[レビュアー] 遠藤秀紀(解剖学者・東京大教授)
年間一兆五千億円以上というのが、日本の葬儀業の産業規模だそうである。人は必ず死ぬものであるから、すぐに消失するような業界でもなかろう。そんな葬儀業の過去を概観し、いまを考える、葬儀業界研究の「入門書」だ。
本書は日本人の精神世界の特質にはあまりふれないが、現代日本人は、世界でもっとも宗教・信仰から隔たった国民だと、私は考えている。日本人は勤勉に働くことで人生から不安を払(ふっ)拭(しょく)し、日常から神や仏を駆逐したのではないか。だがそうなると、暮らしの節目や慶事弔事に、信仰から分離した「道徳の形式」が必要となる。それが、現在の初詣であり、結婚式であり、クリスマスの喧(けん)騒(そう)であり、それこそ葬儀なのだと、私は受け止めている。
そんな日本が、行政から、催事ビジネスから、家族の有り様から、文化と「心」から、死者を送る儀式を各時代にどう変化させてきたのか。それを掘り起こすのが、本作の狙いだろう。
広く本書を勧めたい。普段意識されない葬儀の周辺を、日本人と日本社会を背景に、たまには思慮するきっかけとしてはいかがか。(平凡社新書、1100円)