『大学における自殺予防対策』
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『大学における自殺予防対策』高橋あすみ著
[レビュアー] 東畑開人(臨床心理士)
地味なタイトルなのに、大変に豊かな本だと思う。というのも、大学における自殺を真面目に考えていくと、私たちの社会の孤独の問題に突き当たるからだ。
この15年で、報告されているだけでも7000人以上の学生が自殺で亡くなっている。本書はそのような深刻な事態に対して、丁寧にそして冷静にその原因を分析し、いかなる対処が有効であるかを究明する。
見えてくるのは、大学の内外でつながりを絶やさないための地道な努力こそが自殺対策であることだ。学生も教職員も、ひとりで苦しい思いをしないように、相談窓口を整備し、パンフレットを作り、授業をし、関係者みんなで情報と危機感を共有する。本書はそのとき無限になされている細かい工夫を描く。この果てしない細やかさから、現代におけるつながりがいかに難しいかを読み取ることができるだろう。
本書は大学のみならず、自殺を考えるための入り口になる本でもあり、同時にコミュニティにおいてつながりを繁茂させるためのヒントとなる本だ。ぜひ孤独という現代的現象に関心のある人に一読をお勧めしたい。(学苑社、2970円)