現役東大院生の昆虫研究者が語る「頭を使う」虫採りとは? 戦略と実践で楽しみながら学ぶコツ

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昆虫ハンター・牧田 習と親子で見つけるにほんの昆虫たち

『昆虫ハンター・牧田 習と親子で見つけるにほんの昆虫たち』

著者
牧田習 [著]
出版社
日東書院本社
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784528024595
発売日
2024/07/01
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

現役東大院生の昆虫研究者 が語る「頭を使う」虫採りとは? 戦略と実践で楽しみながら学ぶコツ

[文] 辰巳出版


現役東大院生の“昆虫ハンター”牧田習さん (C)Miharu Saitoh

 子どもたちにとって、夏の楽しみの一つは昆虫採集だろう。里帰りのときに、おじいちゃんが近所の野山で捕まえてくれた昆虫に目を輝かせる……それは今の時代でも変わらないようだ。

 昆虫研究者としてNHK「ダーウィンが来た!」にも出演した現役東大院生の牧田習さん(27)も、虫採りに興味を持ったきっかけは「おじいちゃんが採ってきたミヤマクワガタ」だったという。

 牧田さんが最近出版した昆虫図鑑『昆虫ハンター・牧田 習と親子で見つけるにほんの昆虫たち』(日東書院本社)では、昆虫の魅力だけでなく、虫採りのコツもふんだんに紹介しているが、採集では体だけでなく「頭を使う」ことも大切だという。虫好きの少年がどのようにして世界中を飛び回る昆虫ハンターへと成長したのか、頭を使う虫採りとはどういうものか、ご本人に語ってもらった。

 ***

おじいちゃんが採ったクワガタに魅了され、見つからないゲンゴロウにドはまり…

――牧田さんが昆虫に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか。

 3歳の頃、祖父がオスのミヤマクワガタを採ってきて見せてくれたのがきっかけです。初めて見る独特な見た目や、予測不能な動きに、「なんでこんな形をしているんだろう」「どうしてこんな動きをするんだろう」といういろいろな疑問が一気に湧き出たことを覚えています。祖父は自然や生き物が好きで、よく一緒に近くの草むらに行ったりして虫採りをしました。僕にこの道を進むきっかけを与えてくれた1人ですね。

――そこからどのようにして昆虫研究者への道を歩んだのでしょうか。

 小学校低学年の頃に昆虫の飼い方図鑑で見た、ゲンゴロウの魅力に取り憑かれてしまったんです。ゲンゴロウと一口に言っても、日本に約140種類が生息していると言われています。その中でも大きい種類で、みなさんが初めにイメージするであろう「ナミゲンゴロウ」を採集するまでには10年かかりましたね。

 せわしなく動き回る様子や丸っこいかわいいフォルムなど、ゲンゴロウの姿は見ていて飽きません。「ナミゲンゴロウ」は昆虫の中でも珍しく、実はなかなか捕まえられないんです。僕は小学3年生の時から探し始めましたが、大学1年生の時にようやく捕まえることができました。その時は嬉しさと感動のあまり手が震えて止まらなかったことを覚えています。

 当時はスマホの地図アプリなど持っていませんでしたから、中学生の時は地図帳を買ってきて、学校のある大阪から電車に乗り、奈良や三重にある池という池を巡っていました。沖縄に行った際にそれなりに大きいゲンゴロウの種類を見つけられたのですが、やっぱりナミゲンゴロウを見つけたいという思いがあり、ひたすら探し回っていましたね。


水辺の昆虫採集は学びの宝庫! (C)Miharu Saitoh

――よく10年も諦めずに探し続けましたね。

 水の中って簡単に目で見ることができないじゃないですか。「人間が見えない世界」に長靴を履いてタモ網を持って踏み込んでいく……。ある意味やみくもに網を水中で振って引き揚げ、網の中にいないのを確認してはまた突っ込む、というのを繰り返し、のちに「いた!」と発見できた時の嬉しさは、他の昆虫採集では味わえないポイントだと思っています。ゲンゴロウ採集は、自ら行動し継続することの大切さや、それが報われた時の達成感など、学ぶことが多かったですね。


ナミゲンゴロウ (C)Michio Hino

相手を知り、頭で戦略を立てて体で実践…「頭を使う」虫採りのコツ


昆虫ハンター・牧田 習さん

――なるほど、苦労するからこそ学びながら工夫し、採れたときの達成感が格別になるんですね。現在、牧田さんは東京大学大学院に進んで虫採りを続けていますが、その魅力はどんなところにありますか。

 一番はどこでも楽しむことができる点だと思います。森のような場所でなくても、一見自然が少なそうな住宅街や、陸ではなく水の中だって昆虫を見つけることができます。とはいえ、ただ単に網を振っているだけで昆虫が採れるものでもなく、狙う相手のことを知っておく必要があります。

 例えば、飛べない昆虫には落とし穴トラップを設置する、樹液に集まる習性を持つならどの木の樹液によく集まるかの知識を頭に入れておく必要がありますよね。相手に合わせた戦略を立てて、体を使ってそれを実践していくことに面白みがあるのではないでしょうか。

――情報を分析して戦略を立て、実行する。虫採りを楽しみながら、学力と体力も向上しそうです。最後に、牧田さんが特に心掛けていることを教えて下さい。

 昆虫の「採れた・採れない」に関わらず、その結果をもたらした理由を探り、自分の中で明確にしておくことが大切だと思っています。
 
 実践できることとしては、記録をとったり、標本に残したり、いろいろな蓄積をしておくことで次の採集に活かすことができますよね。
 
 もちろん図鑑やネットで知識を取り込むのも大事なことですが、生体に触れてその生命力を感じたり、自ら立てた採集計画に沿って昆虫を見つけたり、実際に昆虫と向き合うことで虫採りのスキルや経験値が上がっていくのだと考えています。

 ***

 おじいちゃんのミヤマクワガタに魅了された少年は、体だけでなく頭を使った虫採りを続けたからこそ、現役東大院生の昆虫研究家に成長したのだろう。

 牧田さんの昆虫図鑑『昆虫ハンター・牧田 習と親子で見つけるにほんの昆虫たち』では、ただ虫を紹介するだけでなく、牧田さんがこれまでの経験で得た採集や探索のコツを虫ごとに紹介したり、虫の魅力を語るコラムも盛り込まれている。これが次の“昆虫ハンター”を生む一冊になるのかもしれない。

牧田 習
1996年10月14日生まれ。兵庫県宝塚市出身。オスカープロモーション所属。幼少の頃に出会ったミヤマクワガタに魅了され、昆虫好きの道へ。北海道大学理学部数学科に進学したのち、現在は東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程で学ぶ。
昆虫研究者としても活躍し、新種も発表。子どもたち向けの昆虫教室などのイベントも開催し、タレント活動を通して昆虫の魅力を発信する。
NHK「ダーウィンが来た!」や日本テレビ「アナザースカイ」など多数のメディアで活躍中。

辰巳出版
2024年8月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

辰巳出版

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