『法律文章読本』白石忠志著

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法律文章読本

『法律文章読本』

著者
白石 忠志 [著]
出版社
弘文堂
ジャンル
社会科学/法律
ISBN
9784335359927
発売日
2024/04/10
価格
2,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『法律文章読本』白石忠志著

[レビュアー] 岡本隆司(歴史学者・早稲田大教授)

無味乾燥 万人のルール

 おそらく羊(よう)頭(とう)狗(く)肉(にく)の書である。そう評しては、あるいは小欄にふさわしくないだろうか。

 とにかくタイトルと内容に齟(そ)齬(ご)を感じる。数ある「文章読本」の名文に親しんできた身として、開巻一読、違和感を覚えた。読了後その感覚は抜けないながら、大いに納得もしている。どうやらそこが魅力であるらしい。

 そもそもタイトルは「法律文章/読本」と切って、その「法律文章」を「法的な内容を含む文章」だと定義する。「法律」と「法的」も同義ではないので、困惑は免れない。

 「法的」世界はこのように、世上一般とズレがある。それでも法治国家である以上、日本人はいわゆる「法律文章」に囲まれて暮らさねばならない。そこに不可避なジレンマがある。「羊頭狗肉」はその反映とみてもよい。

 本書はそんなジレンマを抱える「社会にとっての必須のインフラ」たるべきことをめざし、適切な「法律文章」の書き方、わきまえるべきルール、その背後にある「考え方」、「用語」「表記」に至るまで、懇切丁寧に説く。文章に縁遠い向きには必見、少しは文章に携わる評者にも、唸(うな)らされる所説は少なくなかった。

 たとえば同じ語(ご)彙(い)の重複を避けよ、というのが「文章読本」の原則。ところが「法律文章」では「同じ意味を指す用語は、なるべく統一したほうがよい」。一字でも違えば、そう書いていないといわれれば、確かに法令は無効になる。

 また「みなす」の語義も、いま一つの典型であり、「反論は認めない」という意にならねば「法律文章」とはいえない。通例の「みなす」とは、別の日本語であろう。

 本書があげる「法律文章」は、どれも平板で無味乾燥、とても読ませる文章ではない。しかし万人が読まなくてはならない文章である。それなら「正確で分かりやす」くあるべきだ。いかに「羊頭狗肉」でも、その趣旨と所説には満(まん)腔(こう)の賛意を表さなくてはならない。(弘文堂、2200円)

読売新聞
2024年8月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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