『外岡秀俊という新聞記者がいた』及川智洋著

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外岡秀俊という新聞記者がいた

『外岡秀俊という新聞記者がいた』

著者
及川 智洋 [著]
出版社
田畑書店
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784803804362
発売日
2024/05/11
価格
3,300円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『外岡秀俊という新聞記者がいた』及川智洋著

[レビュアー] 鵜飼哲夫(読売新聞編集委員)

 村上龍「限りなく透明に近いブルー」が世に出た1976年、もう一人の学生作家が注目された。青春の憂愁を鮮烈に描く「北帰行」で文芸賞を受けた東大在学中の外岡秀俊である。卒業後、作家ではなく新聞記者の道を選び、震災の現場や9・11同時テロ後の世界を駆け回るなど、一記者として時代と向き合ってきた。

 「朝日的」なにおいがほとんどなかったとされる外岡は、どんな思いで取材してきたのか。昇進には無関心の現場主義者がなぜ、編集局長を務めたのか。早期退社し、中原清一郎の名で小説を再開した理由は?

 2021年に急逝した氏が生前に行った回想を、元記者の著者がまとめた。論の部分に異論があっても、常に現場から考える語りは実にすがすがしい。

 クセがないけど個性があるのがいい文章。新聞がつまんないなら自分で面白くすりゃいいじゃないか。流行の後追いをするな、流行として後追いされる記事を書け。これらは若き日に先輩から聞き、自分を新たにしてくれた言葉の次世代へのリレーである。新聞を愛し、その将来を憂えた人からの激励を感じた。(田畑書店、3300円)

読売新聞
2024年8月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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