松岡昌宏主演のWOWOW刑事ドラマ「密告はうたう2 警視庁監察ファイル」原作者が語る創作の裏側、そしてシリーズ最新刊の舞台は…新宿歌舞伎町!

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著者・伊兼源太郎が語る! WOWOWドラマ「密告はうたう2 警視庁監察ファイル」原作シリーズ創作秘話と最新刊『偽りの貌 警視庁監察ファイル』の読みどころは!?

[文] 実業之日本社

今年の夏から秋にかけては伊兼源太郎のシーズンだ。

〈警視庁監察ファイル〉シリーズの1作目『密告はうたう』と2作目『ブラックリスト』で持ち越された謎が解決する、3作目の『残響』が7月に文庫化されたばかり。(すべて実業之日本社文庫)

8月11日からは『ブラックリスト』と『残響』を原作とするテレビドラマ『密告はうたう2 警視庁監察ファイル』(全8話)の放送・配信がWOWOWで始まった。2021年に放送された『密告はうたう 警視庁監察ファイル』(全6回)の好評を受けてのものだ。現在こちらのドラマは各配信でも見ることができる。

9月にはシリーズ4作目で最新作の『偽りの貌 警視庁監察ファイル』(実業之日本社・単行本)が刊行される。さらにアマゾン・オーディブルのオーディオファースト作品として声優・歌手桑島法子の朗読による『リンダを殺した犯人は』(書き下し)の配信が始まっており、書籍版(実業之日本社・単行本)も11月に刊行予定である。


〈警視庁監察ファイル〉シリーズ『密告はうたう』『ブラックリスト』『残響』(実業之日本社文庫より発売中)

――『密告はうたう』から始まった〈警視庁監察ファイル〉シリーズは、公安と並んで敵役として登場することが多かった、監察に勤務する警察官を主人公にした警察小説だ。監察とは内部告発などを受け、不法行為をしている疑いのある警察官の身辺を洗うのが任務だ。尾行などの行動確認(行確)、携帯電話の使用状況の調査など、捜査対象者を丸裸にして、もし不法行為が確認できれば厳しい取り調べに移行して引導を渡す。身内の悪事を暴くわけであるから、恐れられるのと同時に蛇蝎のごとく嫌われる立場である。なぜ作者は警察小説を書くに当たって、監察官という職種を選んだのだろうか。

「当時の担当編集者と警察小説をやろうという話になりました。私は捜査一課が登場する話を書きたかった。でも担当編集者が上司と相談したら、捜査一課を取りあげた作品はすでに多くあり、ぽっと出の私が書いても誰も読まないと却下されました。ではもっと趣向の変わったものをと考え、公安もさして珍しくないが、監察なら作例がまだ少ないかと思ったんです。いろいろ考えているうちに、かつての仲間を疑うというストーリーがぼんやりと形作られてきました。監察だって警察官ですから犯罪を扱う。そうであれば捜査一課でも公安でも監察でも、あまり部署と関係なく描けるのではと気づきました」

――主人公の佐良はかつて捜査一課の刑事だった。ある殺人事件の捜査中、後輩で同僚の斎藤が何者かに撃たれて殉職してしまう。その現場には所轄署の刑事で、斎藤の婚約者である皆口菜子も同行していた。責任を問われた佐良は捜査一課を追われ、警務部人事一課監察係に異動となってしまう。監察係になって1年経った佐良は、上司の能馬から府中運転免許試験場勤務になった皆口菜子の行確を命じられるのだ。

「1作目を書く時点ですでに一冊にまとめるのは無理だったので、当時の担当編集者に3部作か4部作になると伝えました。すでに『残響』に至るまでの大まかな流れが頭の中にありました」

――伊兼源太郎は取材がつきものの新聞記者だったキャリアがあるが、小説を書く上でも取材力は生かされているのだろうか。

「取材はしていません。一般人が公安とか監察なんて取材できませんし、表に出ている監察に関する資料もまずないでしょう。監察については新聞記者時代にちらっとその内情を聞いたことがあったので、それをもとに想像力でふくらませて書いています。書こうと思った時にはストーリーができあがっていました。あとは読者がリアルに感じられれば問題ないだろうと。警察官の生活とかリズムなどはリアリティを失うことなく書ける自信はありました。監察関係者から実際と違うなどとクレームが来たら、かえってラッキーですよね。次からクレームと逆のことを書けばいいのですから。根掘り葉掘り教えていただきたいです」

――どうやら作者は独特の創作方法を持っているようだ。

「私は昔からプロットを考えることに向いていないんです。このシリーズで言えば、1作目で過去に起きた殉職事件とそれに伴う異動があります。さらにその現場に居合わせた皆口菜子を行確する、つまりかつての仲間を疑うことになります。2作目では皆口と監察係で同僚になり、特殊詐欺事件に関する情報漏洩事件を追ううちに、ある組織の存在が浮かび上がります。3作目でその組織の正体に加え、佐良と皆口の人生に影を落としていた殉職事件などすべての謎が解決します。先程も述べた『残響』までの大まかな流れというのがこれですね。おぼろげな塊だけがいつも頭の中にあり、それを注意深く彫っていき、本来の形を具現化させていくような感じでまとめていきます。書き始める段階になれば、1日のノルマを決めてこなしていきます。もちろんつじつまが合わないとか、彫る角度や深さや向きが違ったとか、うまくいかなくて頭をかきむしることもありますが、本当になにも進まない日はほとんどありません。基本的に今日全然だめでも明日の朝になると何か見えてくるだろうと開き直っています。執筆中はたぶん凄く頭を使っていると思うのですが」

――ところで健啖家という噂が。

「原稿に向かっている時だけはよく食べます。頭の中で考えをまとめている時も、実際に執筆している時も、とにかくお腹が減るんです。ステーキ店を3軒はしごして、それぞれ300グラムのステーキを食べたこともありました。小説を書き終えても胃袋が大きいままなので太ってしまうのが不安です」

――とはいえ、矢継ぎ早の仕事ぶりをみれば、太る暇はないのだろう。9月に刊行される『偽りの貌』は2作目の『ブラックリスト』から登場した毛利をフィーチャーした作品だ。


『偽りの貌 警視庁監察ファイル』(9月5日発売予定)

「『残響』を書き終えた段階では4作目を書くつもりはありませんでした。しかしありがたいことに『ブラックリスト』と『残響』を原作にしたドラマが制作されることになりました。ドラマからこのシリーズを知った方も大勢いらっしゃるはずです。そういう方が今回のドラマを見終わった時、第3弾を見たいと切望しても、原作がないと実現の可能性はゼロになってしまいます。書いたところでドラマの第3弾があるかどうかはわかりませんが、ひとまず新作を用意しておくのが原作者の責任ではないかと思いました。佐良や皆口の物語はすでに書いていますから、残っているのは毛利だろうと、彼を中心にした物語にしました」

――毛利はいつも愛想が良く、特にIT関係に強みがあるなど捜査能力も高い。だが本心を見せようとしない。本作も彼が朝鏡に向かい、作り笑顔を確認する描写から始まる。幼稚園児のころからの習慣であり、長年の練習で「すんなりと作り笑いを生み出せる」人間になったのだ。その原因を作ったのが彼の家庭環境だ。父親は仕事一筋の警察官で、家庭を顧みることのない人物だった。母は病弱だが、夫を支え、夫の仕事の足を引っ張らないよう体調の悪さを隠し、気丈に振る舞い続けたのだ。その結果、母親は毛利が小学校4年生の時に亡くなってしまう。「笑って。あなたの笑顔がお母さんにとって最高の薬だよ」という言葉は、毛利にとって一種の呪いにもなっている。そして母親の死後しばらくして、父親も自死する。こうして毛利の家庭は完全に崩壊したのだ。この作品では警視庁生活安全部の少年係の警部補が行確の対象となる。暴力団員と関わりがあり、捜査情報と引き換えに金銭の供与を受けている疑いが浮かび上がったのだ。佐良、皆口、そして毛利の三人はこの警部補を追い、新宿歌舞伎町に赴く。もう一人の視点人物が、中学校のクラスで孤立し、埼玉から初めてここにやってきた少年だ。似たような境遇の女子中学生と知り合いになり、偶然に違法薬物を手に入れてしまう。今回はこの歌舞伎町周辺が物語のメインになる。

「いまの歌舞伎町ではトー横キッズという存在がすっかり有名になりました。私が中学生の頃は渋谷のチーマー。時代ごとに、異なる背景が新たな少年少女の問題を起こしてしまうのでしょう」

――登場する少年少女はDVやネグレクトを受けている。毛利も父親とは完全に断絶しており、母親の死後はネグレクト状態だった。

「少年たちと似た問題を抱えていた毛利は、犯罪に巻き込まれる少年たちとある意味対になる存在です。毛利は捜査対象を追う過程で少年たちを見守ることになり、下手をすれば自分もこうなっていたかもしれないと思うようになっていきます」

――毛利は「必要以上の仕事なんてするべきじゃない」というモットーの持ち主だった。だが明らかにこの事件を通して、自らが課していたリミッターを外していく。「必要以上のことをすべきではない。場合によってはその時に課せられた任務を放棄してでも、必要以上のことをすべき。この二つの狭間に、自分のこれまでの人生では決して見出していなかった何かが隠されている気がする」という毛利の述懐が胸を打つ。

「事件を通して成長する毛利を描けたことは一つの収穫でした。毛利のいい味を出せたのではないかと思います」

――ドラマに小説。夏から秋にかけ、二つの世界で伊兼源太郎作品を楽しむことができる。


ドラマ『密告はうたう2 警視庁監察ファイル』の一場面

「ドラマの第1弾はお世辞抜きに、もの凄く面白かったです。主演の松岡昌宏さんの感情をぐっと抑えた演技をはじめ、すべての演者さんがそれはもう素晴らしくて。私の頭の中にいた佐良、皆口、須賀、能馬、斎藤、その他のキャラクターが画面の中で動いていて、役者さんはすごいなと驚くばかりでした。もちろん、その演技を引き出し、少し暗めの映像にこだわり、ざらついた質感を生み出した監督や脚本、他のスタッフの力もとてつもなく高いレベルなのだと思います。映像版『密告はうたう』シリーズのファンとして第2弾もとても楽しみです。ドラマでこのシリーズを知った方が、ついでであっても原作小説を購入し、読んでいただけると嬉しいですね」

聞き手・構成 西上心太

実業之日本社
2024年8月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

実業之日本社

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