『清代知識人が語る官僚人生』山本英史著/『訟師の中国史』夫馬進著

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清代知識人が語る官僚人生

『清代知識人が語る官僚人生』

著者
山本英史 [著]
出版社
東方書店
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784497224057
発売日
2024/04/16
価格
2,640円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

訟師の中国史

『訟師の中国史』

著者
夫馬 進 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784480017956
発売日
2024/04/17
価格
2,090円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『清代知識人が語る官僚人生』山本英史著/『訟師の中国史』夫馬進著

[レビュアー] 岡本隆司(歴史学者・早稲田大教授)

 今は昔の中国、地方末端の官僚は庶民と直(じか)に接する県知事であり、「親民の官」とよばれた。とはいえ、およそ徴税と訴訟にあたるのみ、税務署と裁判所の業務であって、一般の民政には、ほぼタッチしない。

 このあたりですでに日本史の常識とはかけ離れている。そんな歴史経過を背負って、はかりしれない現代中国が成り立っているのだとすれば、非常識な昔の理解が、中国の今をわかる一法だといえなくもない。

 類書も稀(まれ)な両書は、日本でいえば江戸時代・清代史の碩(せき)学(がく)にして社会史研究の第一人者が、それぞれの学殖を書き下ろした一般書である。典型的な一県知事の職務・経歴・思想、あるいは往年の訴訟慣行と辯(べん)護(ご)士(し)ならぬ「訟(しょう)師(し)」のなりわいから、中国社会の旧態が髣髴(ほうふつ)すると期待したい。

 何分われわれにとって非常識なだけに、両書の紹介する用語も制度も言動も、複雑でわかりづらく、通読に骨が折れる。しかしその非常識な史実が、常識的な素養になってくると、日本人の中国観に転機が訪れるように感じるのは、評者だけではあるまい。(東方書店、2640円/筑摩選書、2090円)

読売新聞
2024年8月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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