『いますぐできる実践行動経済学 ナッジを使ってよりよい意思決定を実現』大竹文雄著

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いますぐできる実践行動経済学

『いますぐできる実践行動経済学』

著者
大竹 文雄 [著]
出版社
東京書籍
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784487817719
発売日
2024/05/29
価格
1,430円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『いますぐできる実践行動経済学 ナッジを使ってよりよい意思決定を実現』大竹文雄著

[レビュアー] 櫻川昌哉(経済学者・慶応大教授)

バイアス正す行動の手引

 伝統的な経済学は、人々は合理的に行動するはずだという前提にたって、意思決定や経済のメカニズムを解明してきた。行動経済学は、この合理性信仰に疑いを持ち、必ずしも合理的とはいえない人間の行動を受け入れようとする。

 しかしながら、非合理的であるといっても、でたらめな行動をしているわけではなく、人々はある規則性のある思考や行動をすると主張する。例えば「現状維持バイアス」という考え方がある。結婚、転職、転居など人生における大事から日常の些細(ささい)な事柄まで、現状維持のままがいいのか変化を選択すべきか迷うことは多い。人々には「今までこうしていたのだから、このままでいたほうがいい」と安易に考える傾向がある。すると、現状維持へのバイアスこみでどちらか決めかねているなら、変化を選んだ方が合理的であるという結論に達する。

 本書は、行動経済学の専門家が、中高生向けに講義するスタイルをとりながら経済学の基本的な考え方を紹介する。記述は平易であり、説明は論理的で正確でかつ深い。

 感染症が拡大する恐れがあるとき、自由な経済活動をどこまで制限すべきか。さほど儲(もう)からない事業の撤退を思案するとき、すでに費やした投資額の大きさにどこまでこだわるべきか。損失を回避したいという意識が先走って、期待される収益を冷静に見極めない態度は合理的なのか。働く現場で人間がAIやロボットとどう付き合ったらよいのか。トピックスは多岐にわたる。

 人々の意思決定にはバイアスがあり、誤った行動の原因となっている。ならば、ルールや仕組みにちょっとした工夫(つまりナッジ)を施して、バイアスを修正して正しい行動へと導けないだろうか。風しん抗体検査の受検率やワクチン接種率を高めるために著者が関わった体験談も紹介される。行動経済学の知見は社会の仕組みに取り入れられつつある。

 暑い夏のひとときに、頭の体操でもするかのようにすらすらと読めるこの経済書をぜひお勧めしたい。(東京書籍、1430円)

読売新聞
2024年8月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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