お金さえあったら、全国のすべての図書室に配りたい 「別冊文藝春秋」新人発掘プロジェクト1期生・実石沙枝子のデビュー2作目の読みどころとは?

対談・鼎談

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物語を継ぐ者は

『物語を継ぐ者は』

著者
実石沙枝子 [著]
出版社
祥伝社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784396636647
発売日
2024/07/11
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

夏の読書に! 実石沙枝子さんと『物語を継ぐ者は』を語ろう!

[文] 祥伝社


作家の実石沙枝子さん

 2024年7月に祥伝社から刊行された、実石沙枝子さんによる『物語を継ぐ者は』。デビュー2作目となる本作は、14歳の女子中学生が、愛読する作家の急逝を知って、自ら大好きな物語の続きを書き継ぐというひと夏の青春ファンタジーです。

 物語は、中学生の本村結芽が、急死した伯母の部屋で、愛読する児童書の原稿を見つけるところから始まります。『鍵開け師ユメ』シリーズは、孤独な小学校生活を過ごした結芽にとっての唯一の友達であり、心の拠り所。伯母が、その作者イズミ・リラだったと知った結芽は最新作を夢中で読むのですが、遺稿は未完のまま。どうしても続きが読みたい結芽は、自分で物語の続きを書くことを決意します。主人公ユメの魔法の呪文を唱えることで、物語のファンタジー世界と現実を行き来できるようになった結芽。自らの冒険を書き記していきますが、何かが足りない。物語に息吹を吹き込むには、伯母の、イズミ・リラの人生を知らなければ――。結芽の本当の冒険が、はじまります!

 作中作をふんだんに盛り込んだ意欲作について、書店員のみなさんと著者の実石沙枝子さんを囲み、お話をうかがいました。(文・編集部)

\座談会にお集まりの書店員さんたち/

宇田川拓也さん
ときわ書房本店。ミステリもミステリじゃないのもなんでもござれ!

内田剛さん
ブックジャーナリスト。アルパカ好きのすご腕ポップ職人!

内田俊明さん
八重洲ブックセンター本部。読んだ作品数は数知れずの大ベテラン!

山本亮さん
大盛堂書店。渋谷から世界へ、本への愛と作品の魅力を飽くなき発信!

 ***

宇田川拓也さん(以下、宇田川) いやあ『物語を継ぐ者は』、めちゃくちゃ面白かったです! お金さえあったら、全国のすべての図書室に配りたいくらい。

実石沙枝子さん(以下、実石) ありがとうございます! 小学生のころ図書室っ子だったので、そう言っていただけてうれしいです。

内田剛さん(以下、内田た) 現実の世界とファンタジーの世界、それぞれが完璧に作り上げられ、描かれていました。構想にかなり時間がかかったのでは?

実石 デビューした2年くらい前から温めていました。そのときは、誰かが残した物語の続きを書く話、という漠然としたイメージしかなくて。一章分くらい書いてみたのですがちょっとぴんとこなかったのが、伯母と姪だ!と思いついてから筆が乗りました。

内田た たしかにものすごい勢いを感じました。読み手もそれにのせられて止まることなく前へ前へと読み進めてしまう。作中作「鍵開け師ユメ」にワープするところなんかまんまと乗せられてしまいました。

内田俊明さん(以下、内田と) そうだね。読んでいると頭の中に映像がどんどん浮かんできて、楽しくて仕方ない。

山本亮さん(以下、山本) 作中作のシーンの手触りというか、臨場感がすごかった。主人公の結芽ちゃんが、現実世界と物語の中の世界を行き来するわけですけど、やっぱり現実を描く本編と、作中作のシーンは、別々に書かれたんですか?

実石 いえ、同時に書きましたっ!

一同 えっ!? ええ~!!!

実石 私はプロットとは別にシーン表というのを作ってから書き始めるんです。そこには誰がどこで何をして、何を言うといったことがまとめてあって。シーンの連続という意味では、同じ線の上にエピソードを重ねていくのと変わらないかな。

山本 それでも舞台のまったく異なる物語が並行してすすむから、頭の中はどうなってるんですか。

実石 現実世界と鍵開け師の世界と、脳内に2つのモニターがあって、そこに出入りする主人公の結芽のふるまいを、私が書き取るイメージです。だから互いに影響を与え合っていて、書いているうちに自然と、現実世界がファンタジーの世界にまぎれこんでくる場面もできました。特に「鍵開け師ユメ」が活躍するファンタジーの世界は書くのが楽しくて、ノリノリでしたね。

内田た 結芽のイメージは明確にあったんですか? 実石さんご本人とリンクするところもあるのかなと。

実石 小学生の結芽は、私の過去から来ています。だけど私の性格は、結芽の親友である琴羽のほうが近いかな。結芽と琴羽を足して2で割ったら、実石沙枝子になります。

内田と 琴羽は編集者っぽい、いい仕事をするよね。はじめからストーリーの骨格はできていたんですか?

実石 琴羽は名編集者、まさにそうですね。私はデビューが決まるまでの投稿時代がとにかく長かったので、ひとりで書いてひとりで推敲する、の繰り返しでした。その過程で脳内に編集者を2人くらい待機させてます。優しい編集者と、もう一人は鬼編集長。

内田と 「鬼」ってまさか、実在する編集者をモデルにして……ないよね……?

実石 どうでしょう(笑)。ストーリーがみえてきたらまずガーッと書きます。他人様には見せられないレベルですが、ゼロ稿みたいなものをまず書きあげてすこし時間を置きます。そして、脳内編集者の登場。「辻褄が合ってない!」「でもこの展開は面白いと思いますよ~」「伏線が回収されてないじゃないか!」「このセリフ決まってますね~」とか、二人の編集者がやいのやいの言ってくるのを聞いては修正していきます。私、改稿作業がいちばん好きなんです。

内田た タイトルもそんな感じで決めたんですか? 堂々たるタイトルですよね。

山本 同感。タイトルに引き付けられましたから。これは大事ですよ。

実石 実は……反対に、いちばん苦手なのがタイトルをつけることでして。はじめは『物語のつづきは』というタイトルをつけていました。今の第五章の章タイトルですね。世の中に小説の書き方本はたくさん出ているのに、タイトルの付け方本はぜんぜん出ていないから困っちゃって。脳内編集長から出せ出せと言われて、なんとかひねり出した案なのですが、このタイトルは私も気に入っています! それと……。

宇田川 カバーですよね? これもすごくいい。

実石 ですよね? 装画はイラストレーターのよしおかさんです。ファンタジーと現実のバランスが絶妙で美しくてかわいくて、大好きです。この、カバーで結芽が抱いている緋色の本が「鍵開け師ユメ」なのですが、初校では「紺色」の本としていました。よしおかさんのラフでも紺色だったのですが、絵を拝見したらもっとちがう色の方がいいのではないかということになって、本番の絵は赤! 装画にあわせて本編での本の色を変更しました。そのつもりはなかったのですが、エンデの『はてしない物語』と一緒の色ですね。

宇田川 そのエピソード、なんだか腑に落ちるなあ。結芽の足元の靴も片方ずつ変えてますよね? 帯をめくると、あっ!て驚きます。

実石 気づいてくださいましたか! このちょっとしたしかけもデザイナーのbookwallさんとよしおかさんによるものです。まだまだいろいろ隠れているので探してみてください。

山本 物語のカギはおばさんの死ですけど、デビュー作の『きみが忘れた世界の終わり』も、死んだ高校生が「きみ」に語り掛ける、二人称視点が印象的でした。

実石 デビュー作は公募なので、ちょっと目立つことをしなければと二人称に挑戦しました。今回は現実とファンタジーを出入りする関係でシーンがたくさん入れ替わるから、視点はシンプルに結芽の一人称です。

内田と デビュー作はSFにくくることもできて、今回はファンタジー。書けるストックをたくさん持っていそうでこれからの活躍が本当に楽しみです。みんなで応援してますよ!

実石 ありがとうございます。『物語を継ぐ者は』は、中学生くらいから大人まで、幅広い年代の方々に読んでいただける内容になっています。今日みなさんとお話ししながら、この作品が本を愛する人たちの心にきちんと届いていることを実感できて、とてもうれしいです。これからももっと本が好きになるような作品を、書いて書いて書きまくります!

【著者プロフィール】
実石沙枝子(じついしさえこ)
1996年生まれ、静岡県出身。「別冊文藝春秋」新人発掘プロジェクト1期生。第11回ポプラ社小説新人賞奨励賞受賞。2022年、『きみが忘れた世界のおわり』(『リメンバー・マイ・エモーション』から改題)で第16回小説現代長編新人賞奨励賞を受賞し、デビュー。得技はアイスの早食い。2024年12月に講談社から3作目を刊行予定。

祥伝社
2024年7月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

祥伝社

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