『徹底討議 二〇世紀の思想・文学・芸術』松浦寿輝/沼野充義/田中純著

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徹底討議 二〇世紀の思想・文学・芸術

『徹底討議 二〇世紀の思想・文学・芸術』

著者
松浦 寿輝 [著]/沼野 充義 [著]/田中 純 [著]
出版社
講談社
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784065348833
発売日
2024/03/07
価格
4,620円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『徹底討議 二〇世紀の思想・文学・芸術』松浦寿輝/沼野充義/田中純著

[レビュアー] 郷原佳以(仏文学者・東京大教授)

思想と不可分 碩学鼎談

 1975年、『ユリイカ』誌上での連載をまとめた『徹底討議 19世紀の文学・芸術』が刊行された。編集長・三浦雅士の発案で、音楽学者の平島正郎、文学者の菅野昭正、美術史家の高階秀爾が19世紀をロマン主義という観点から綜合(そうごう)的に再検討する長大な鼎談(ていだん)を行ったのだ。今日でも19世紀の芸術を深く知るために熟読すべき名著である。そして20世紀から四半世紀が経(た)とうとする今年、やはり今日の人文学を代表する三人の碩学(せきがく)によって『徹底討議 二〇世紀の思想・文学・芸術』が編まれたことは、ようやく少し距離をとって前世紀を眺めることのできる今日の読者にとって願ったり叶(かな)ったりである。主題に「思想」が加わったことは、20世紀の芸術創造が思想と不可分だったという認識を表している。もちろん、政治や社会の動きが重視されることは言うまでもない。むしろ、社会背景に連動していかなる芸術・思潮上の動きが見られたのか、そしてそれがいかなる仕方で「20世紀的」だったのか、ということが多角的に示されてゆく。社会背景とは何より二度の世界大戦―その「内戦」的性格も指摘される―であり、ロシア革命である。「20世紀的」とは、西欧近代の価値を周縁に拡(ひろ)げてゆく19世紀と異なり、中央と辺境の構図が崩れてゆくことである。そのプロセスのなかで象徴的な働きをした作家たちが本書によって浮き上がってくる。ベンヤミン、プルースト、リルケといった人々だ。

 全十二回の鼎談では、前掲書と同様、フランス文学、ロシア文学、ドイツ文化(特に建築)に軸足を置く三名のうちの一名が最初に報告を行い、それを受けて討議が行われる。面白いのは、生き字引のような著者たちの完成度の高い報告が、その後に次々に引かれてゆく補助線によって立体的になってゆくことである。言語論的転回からの「現代思想」に関しては、単に教科書的な解説ではなく、隆盛期を現実に経験した著者たちの率直な印象を聞けるのも刺激的だ。(講談社、4620円)

読売新聞
2024年7月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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