『エビデンスを嫌う人たち 科学否定論者は何を考え、どう説得できるのか?』リー・マッキンタイア著

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エビデンスを嫌う人たち

『エビデンスを嫌う人たち』

著者
リー・マッキンタイア [著]/西尾義人 [訳]
出版社
国書刊行会
ジャンル
自然科学/自然科学総記
ISBN
9784336076199
発売日
2024/05/27
価格
2,640円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『エビデンスを嫌う人たち 科学否定論者は何を考え、どう説得できるのか?』リー・マッキンタイア著

[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)

強固な主張 傾聴し対話

 新型コロナは世界中で流行しましたが、蔓延(まんえん)したのはコロナだけではありません。

 本書がテーマとする科学否定論が勢いを増したのです。イタリアでは反ワクチンの動きが広がり、イギリスではコロナ陰謀論を信じた人々によって5G基地局の鉄塔が破壊されました。

 もちろん科学否定は自分の利益のための宣伝広告である面も否定できませんが、それだけではないだけに厄介です。恐怖、疎外感、イデオロギー、アイデンティティを動機として、科学否定論を信じる人々がつながり、拡大が加速されます。感染症や気候変動などの問題を科学で解明し、解決しようとすることを受け入れず、世界に分断をもたらすのです。放置できないくらい、その影響が大きくなっています。

 科学否定論や陰謀説に支配されている人の信念は驚くほど強固です。説得者に簡単に同意しないうえ証拠を示してもはぐらかすテクニックにたけている信奉者も多いようです。

 では、科学否定論者を説得するためにどうしたらいいのでしょうか。都合の良い証拠のつまみ食い、陰謀論への傾倒、偽物の専門家への依存、非論理的推論、科学に完璧な証明を求めるという五つのパターンが科学否定論者の考え方の底にあるのです。著者はこの五つに基づく否定論者の主張を敬意をもって傾聴のうえ対話して説得すること、科学万能論を振りかざさないことが有効と主張します。時間がかかる手法ですが、トランプ前米大統領でさえいつのまにかマスクをしていたように、彼らの考えも変わる可能性があるのです。著者はブラジルだけでも1100万人に及ぶ信奉者がいる「地球平面説」の集会に参加し、彼らと向きあいます。平面説を唱える人々の思い込みの激しさと、そこまでいうかと言いたくなるような反論のしつこさは驚きです。それだけに本書から伝わる科学否定論の拡大を防ぎたいという著者の思いの強さと努力に敬意の念を覚えます。西尾義人訳。(国書刊行会、2640円)

読売新聞
2024年7月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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